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職場の化学物質規制、「自律管理型」へ大きく転換

昨年5月、職場における化学物質管理に関する規制が大きく改正されました。
その主な内容が、今年4月から、と、来年4月から、順次、施行されていきます。

労働安全衛生法は、第5章が「機械等並びに危険物及び有害物に関する規制」を定め、その第2節で「危険物及び有害物に関する規制」を定めています。
危険性や有害性が高いものは、第55条で製造等が禁止される8物質、第56条で製造に許可を要する7物質、が定められています。

改正の背景と目的
労働安全衛生法は、第57条で「表示」(人体に及ぼす作用や貯蔵・取扱い上の注意を記載したラベル)義務、第57条の2で「文書」(SDS:安全データシート)交付等義務、第57条の3で「調査等」(リスクアセスメント)義務、を定めています。
これら義務の対象となる物質は、労働安全衛生法の特別規則である「特定化学物質障害予防規則」や「有機溶剤中毒予防規則」などで定める123物質(第56条の製造許可物質7物質も入ります)を含め、現在、674物質が定められています。
このように、これまでの化学物質規制の仕組みは「法令準拠型」、すなわち、限られた特定の物質や作業に対する個別の法規制を順守することで行われてきました。
しかし、現在、世界中に、危険性や有害性が指摘されている物質は、少なくとも数万、あるいは約6万物質ある、と言われています。

今回の改正は、2019(令和元)年から規制見直しの検討が始まり、2021(令和3)年7月19日に「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」がまとめられ、これを受けたものです。
規制見直しの契機や背景には、次のような現状や課題がありました。
○化学物質による労働災害の約8割は、規制対象外物質によるもの
○規制対象を拡げれば、危険性・有害性の確認・評価が不十分な規制対象外物質に流れ、かえって危険
○企業規模が小さいほど、ラベルやSDSに対する理解が低く、有害作業が為されがち
○工場等で日常的に使われている物質は数万に上り、その用途もさまざま
○物質の危険性・有害性情報を伝達する制度の対象が限定的

今回の改正は、このような従来の「法令準拠型」管理を、欧米型の「自律管理型」管理へ、大きく転換させるものです。
「自律管理型」とは、基本的な枠組みと達成すべき指標だけを示し、具体的な管理手法は事業者が選択・決定するということを意味します。
労働安全衛生法はそのままですが、関係政省令(同法施行令と労働安全衛生規則等)が改正されました。

改正の概要
1 ラベル表示・SDS・リスクアセスメントの対象物質が拡大
化学物質については「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(GHS)が世界標準となっています。
国はすでに2900物質について、GHS分類で危険性・有害性を確認し、モデルラベルとSDSを作成しています。これにもとづき、令和3年度に234物質(令和6年4月施行)、令和4年度に700物質(令和7年4月施行)、令和5年度は850物質(令和8年4月施行)、が順次、追加されていきます。

2 リスクアセスメント結果にもとづく、ばく露低減措置
リスクアセスメントについてのサイトはこちら↓
職場のあんぜんサイト:化学物質:化学物質のリスクアセスメント実施支援 (mhlw.go.jp)

リスクアセスメントにもとづき、ばく露の程度を以下の方法等で最小限度にします。
①代替物の使用 ②発散源の密閉や排気装置の設置・稼働 ③作業方法の改善 ④有効な呼吸用保護具の使用
濃度基準値設定物質は、ばく露の程度を濃度基準値以下としなければなりません。
リスクアセスメント結果等に関する記録の作成・保存、労働者の意見聴取も義務付けられました(今年4月施行)。

3 化学物質を製造・取り扱う労働者に適切な保護具を使用させること
皮膚等への障害を引き起こしうる化学物質を製造・取り扱う業務に労働者を従事させる場合、物質の有害性に応じて、労働者に障害防止用保護具を使用させなければなりません。

4 自律的な管理に向けた実施体制の確立
化学物質管理者、保護具着用管理責任者の選任が義務化されます(2024年4月施行)。
衛生委員会への付議事項の追加(リスクアセスメント結果に基づくばく露低減措置、健康診断結果やそれに基づく措置)、50人未満事業場も労働者意見聴取機会を設けること、が義務付けられます。
雇い入れ時における化学物質の安全衛生に関する教育が全業種で必要になります(2024年4月施行)。

詳しい情報は、厚労省の関係サイトにあります↓
化学物質による労働災害防止のための新たな規制について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
職場における化学物質対策について |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

「ウチは何からどうすれば良いのか、分からんゾ!」という経営者さんは、貴社が購入される物質にSDS(安全データシート)が付いていたら、先ずは、それをちゃんと読むようにしてください。
特に、第3項には「組成および成分情報」が、第15項には「適用法令」が記載されていますので、これらをもとに、厚労省や独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所(JNIOSH)などのオフィシャルなサイトで、物質の危険性や有害性、規制内容、を調べることができます。
専門の相談窓口も設けられています↓
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000046255.html