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服務規律と懲戒規定

 遅刻や欠勤、人間関係や風紀、・・中小企業経営者にとって、「ヒトの問題」は悩みが尽きないですよね。

 説得や説諭も大切ですが、就業規則の「服務規律」や「懲戒規定」も確認しておくようにしてください。

 先のブログで「就業規則は労働契約書」と書きましたが、「契約」なら当事者対等のはず、ですよね?

 服務規律や懲戒規定って、何となく使用者の上から目線的な感じがしませんか?

 労働契約に服務規律や懲戒制度が含まれるのはどうしてなのでしょうか?

高裁は、「企業秩序」とその遵守義務としてこれを説明しています。判りやすくまとめると、

 企業の存立と事業の円滑な運営の維持のためには「企業秩序」が必要不可欠である。使用者は、企業秩序を定立し維持する当然の権限を有し、その維持確保のため、必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができる。企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、または違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができ、さらに、違反行為者に対して、企業秩序を乱すものとして、規則の定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる。労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う。

 つまり、企業秩序とその遵守義務とは、企業および労働契約の本質に根ざす当然の権限および義務、と説明しています。

 反対に、服務規律で規定できる内容や懲戒処分の対象になる行為や程度も、その企業の企業秩序の定立と維持に必要な範囲に限られます。労働者は、企業および労働契約の目的上必要かつ合理的な限度で企業秩序に服しますが、それと関係のない私生活上の行為など、「企業の一般的な支配に服する」わけではありません。判例で問題になった服務規律には、ハイヤー運転手のヒゲ、やトラック運転手の茶髪、がありますが、最近では、性同一性障害者が別性容姿で就労したことへの懲戒解雇が無効になった判例もあります。

 企業秩序とその遵守義務といっても、企業秩序の違反行為について、違反事由や制裁手段を使用者が恣意的に決められるわけではありません。判例は、違反事由とそれに対する制裁の根拠が就業規則に予め規定されていることを厳格に求めています。

 実際に多くの就業規則では、「服務規律」の章と「表彰及び制裁」の章がそれぞれ規定されていて、「制裁」には「懲戒の種類」と「懲戒の事由」が規定されているくらいです。

  <参考>モデル就業規則について |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 労働契約法では、第15条に懲戒権濫用無効、第16条に解雇権濫用無効、が規定されています。

 両条文はともに「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合を「濫用」として「無効」としています。

 では、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」であるように懲戒制度を運用するには、どうすればよいでしょうか?

 ここではやはり、懲戒は制裁であって、ある意味、企業組織内の刑罰ともいえるので、考え方としては、刑法や刑事罰に関して社会的に蓄積された法原則をあてはめるのが良いと考えます。

例が厳格に就業規則に違反事由と制裁手段の根拠を求めるのは、「罪刑法定主義」の考え方です。どういう行為をすると企業秩序違反となるのか、それに対してどんな制裁がありうるのか、予め、就業規則に明示され、従業員労働者にも周知されていることが必要になります。

 行為当時より後から規定された服務規律の違反を問責されるのは、不遡及原則に反しますし、いったん懲戒対象となった行為を再び問責されるのは一事不再理に反します。

 そして、軽微な違反行為に対して懲戒解雇など重い制裁を課するのは、比例原則(行為の違反程度と制裁の重さ程度が釣り合っていること)に反します。

 さらに、適正手続の考え方からすれば、違反行為の事実認定や評価、懲戒種類の選択や内容決定について、懲戒委員会など公正な手続制度があれば、より良いです。

 また、過去の同種事案との公平性も必要です。

 服務規律と懲戒制度を就業規則に則って運用するのは、経営者にとってもしんどいものだと思います。

 しかし、日々あたりまえに企業秩序の維持に協力してまじめに働いてくれている多くの従業員さんのことを思えば、そこは、ガンバってください。