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「年収の壁・支援強化パッケージ」を考える

 以前から問題になっていた、サラリーマンの専業主婦がパートタイマーで働く際の「年収の壁」。
 今年(2023)年9月27日、「全世代型社会保障構築本部(議長:内閣総理大臣)」は持ち回り開催で、「年収の壁・支援強化パッケージ」を決定し、10月から進めているそうです。

 我が国の公的年金制度は「2階建て」になっており、1階は「国民皆年金」で日本国内に住む20歳以上60歳未満の人(外国人も)は、全員が加入する義務があります(国民年金法第7条(被保険者の資格)1項1号)。2階部分は主に、被用者(会社員・公務員、いわばサラリーマン)の「厚生年金保険」(国民年金法第7条1項2号)です。

 「年収の壁」問題とは、サラリーマン(第2号被保険者)の「(被扶養)配偶者(実情は妻)」に関する問題です。
 国民年金法では第7条(被保険者の資格)1項の3号に規定されているため「第3号被保険者」と言います。
 国民皆年金の基本理念からすれば、これらの方々も本来は、国民年金に加入すべきです。
 しかし、独自の収入が無くかつその分はその配偶者(実情は夫)が厚生年金保険として払っている?という理由で、保険料負担は無いのに基礎年金受給権が認められています。
 そしてその「被扶養」とされる基準が「年収130万円(106万円)」なのです。このため、パートタイマーなどで働く場合も、年収が130万円を超えると社会保険料の負担が発生して手取りが減ってしまうため、就業制限を動機付けしてしまっている、という問題です。

 では、政府が打ち出した「支援強化パッケージ」を見てみましょう。

(1)106万円の壁への対応
①キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」を新設
 短時間労働者が新たに被用者保険適用となる際に、手当等支給あるいは労働時間延長によって当該  労働者の収入を増加させる取組を行った事業主に対し、労働者1人当たり最大50万円を助成する、というものです。
②社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
 被用者保険が適用されていなかった労働者が新たに適用となった場合に、事業主は当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給することができ、同手当については、被用者保険適用に伴う労働者本人負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、当該労働者の標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しない、というものです。

(2)130万円の壁への対応
③事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
 一時的に収入が増加し直近の収入に基づく年収の見込みが130万円以上となる場合においても、直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、総合的に将来収入の見込みを判断することとし、被扶養者認定においては、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等を確認することとしているところ、一時的な収入の増加がある場合には、これらに加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで迅速な認定を可能とする、としています。

(3)配偶者手当への対応
④企業の配偶者手当の見直し促進
 収入要件がある配偶者手当の存在が、社会保障制度とともに就業調整の要因となっている、として、民間企業にも見直しの必要性・メリット・手順等 の理解を深めてもらう、としています。

年収の壁・支援強化パッケージについて|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 どうですか? 

「当面の対応として」とか言ってるけど、そもそも「第3号被保険者」そのものを抜本的に見直す覚悟などは、無いようです。
 支援強化パッケージ導入の理由には、少子化対策、賃上げ促進、人手不足、などが挙げられていますが、この問題の根っこに在るのは、ジェンダー不平等と家族形態の変化、だと思います。

 そもそも「国民皆年金」の基本理念からずれば、サラリーマンの妻(専業主婦)のみを優遇する「第3号被保険者」の制度自体が不平等です。
 「支援強化パッケージ」は、この不平等な優遇に、さらに税金を投入して不平等な優遇を増幅させるものに他なりません。
 保険料負担が無いのに基礎年金受給権があることの理由が、サラリーマンの夫が保険料を払っている厚生年金制度全体で賄っているから、というのもまったく理解できません。被扶養者が妻だろうが、妻以外だろうが、厚生年金加入者は同じ料率で社会保険料を支払っていますよね。
 学生だって、20歳になったら、収入ゼロでも、国民年金保険料を支払わされているじゃないですか。
 同じ専業主婦でも、農林水産業や商工業の自営業者の妻は、どうして「優遇」がないのでしょうか。

 そもそも「第3号被保険者制度」がおかしいでしょ!
の世論がもっと盛り上がっても良いと思います。

 「国民皆保険」を徹底して「第3号被保険者」制度を撤廃するか、年収130万円以下の国内在住20歳以上60歳未満には「一律」「第3号被保険者」として同じ優遇措置とするか、そのどちらかだと思います。