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GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針を読んでみた

 昨年12月22日、内閣官房に設けられた「GX実行会議」が、「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」を発表しました。今月22日までパブコメが行われています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595222084&Mode=0

 次期通常国会にはGX実現に向けた関連法案の提出が予定されています。

 この方針の基本認識は、「GXに向けた脱炭素投資の成否が、企業・国家の競争力を左右する時代に突入」です。
 この方針は、GX実現を通して、2030年度GHG(温室効果ガス)46%削減と2050年CN(カーボンニュートラル:実質的排出ゼロ)の国際公約を達成するとともに、安定的で安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換、さらには我が国の産業・社会構造の変革により、将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会の実現を目指した、今後10年の取組み方針と位置付けられています。
 その内容を、目次的に項目からざっと見てみましょう。

エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取組
(1)基本的考え方
(2)今後の対応
1)徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換(燃料・原料転換)
:大企業(大規模需要家)には省エネ法の定期報告情報の任意開示を導入、中小企業には複数年対応できる省エネ補助金の創設など支援強化
2)再生可能エネルギーの主力電力化
:2030年36~38%達成を目指し、FIP拡大と脱FIT/FIP、洋上風力に日本版セントラル方式と陸上風力の規制・制度の合理化、系統のマスタープランに基づく8倍速整備、蓄電池やデマンドレスポンスによる調整力確保、ペロブスカイトや浮体式洋上風力の次世代新技術開発、廃棄費用積立や土地開発許認可の規制強化
3)原子力の活用
:「安全神話からの脱却」を前提に、運転期間の現行(40年+20年)の追加的延長、次世代革新炉の開発と廃炉建替え、核燃料サイクル推進と文献調査受入れ自治体に対する国を挙げての支援体制
 なお、同時期で「原子力利用に関する基本的考え方」(原子力委員会)もパブコメされています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095221020&Mode=0
4)水素・アンモニアの導入促進
:国家戦略の下でクリーンな水素・アンモニアへの意向を求めるとし、国内の大規模グリーン水素の生産・供給については、余剰再生可能エネルギーからの水素製造・利用双方への研究開発や導入支援を加速する、としつつ、水素・アンモニアを海外から輸入する場合も前提となっています。
5)カーボンニュートラル実現に向けた電力・ガス市場の整備
:2024年度開始予定の容量市場を着実に運用、戦略的余剰LNG確保
6)資源確保に向けた資源外交など国の関与の強化
7)蓄電池産業
:2030年国内製造基盤150GWhの確立、全個体電池の2030年頃本格実用化に向けた研究開発
8)資源循環
9)運輸部門のGX
①次世代自動車:改正省エネ法による輸送事業者や荷主に対する「非化石エネルギー転換目標」中長期計画作成義務化 ➁次世代航空機 ③ゼロエミッション船舶 ④鉄道 ⑤物流・人流
10)脱炭素目的のデジタル投資
11)住宅・建築物
:2025年までに省エネ基準適合を義務化、ZEH・ZEB水準の新築・改修の支援策強化、木材利用の促進
12)インフラ
13)カーボンリサイクル/CCS
①カーボンリサイクル燃料 ➁バイオものづくり ③CO2削減コンクリート ④CCS ⑤食料・農林水産業

「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行
(1)基本的考え方
「成長志向型カーボンプライシング構想」関連法案を次期通常国会に提出
(2)「GX経済移行債」(仮称)を活用した大胆な先行投資支援(規制・支援一体型投資促進策)
1)基本的考え方
:今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実現するため、国が20兆円規模の先行投資(GX経済移行債(仮称)発行)支援を実行
2)「GX経済移行債」(仮称)
:来年度以降10年間、総額20兆円規模のGX経済移行債(仮称)を毎年度、国会議決金額内で発行、エネルギー対策特別会計で区分、償還は2050年度(カーボンニュートラル達成目標年度)までに終える設計
3)国による投資促進策の基本原則
:基本条件(4条件)に加え、産業競争力強化・経済成長の要件(3つ)のいずれか、及び、排出削減要件(3つ)のいずれか、に適合が支援対象候補
(3)カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
1)基本的考え方
:直ちに導入するのではなく、GXに集中的に取り組む期間を設けた上で導入し、当初低い負担で導入し、徐々に引き上げる
2)今後の対応
①「排出量取引制度」の本格稼働:2026年度から本格稼働、価格帯は2023年度創設を目指すカーボンクレジット市場での取引価格も踏まえ、2026年度以降に設定 ➁発電事業者に対する「有償オークション」の段階的導入:導入開始時期は2033年度 ③「炭素に対する賦課金」の導入:GXに集中的に取組む5年の期間を設け2028年度から導入 ④カーボンプライシングの実施等を担う「GX経済移行推進機構」(仮称)の創設
(4)新たな金融手法の活用
1)基本的考え方
2)今後の対応
①GX分野における民間資金の呼び込み(グリーン分野)(トランジション分野):GFANZ傘下の金融アライアンスに賛同する投資家・金融機関は2050年度までにファイナンスド・エミッション含めて自社の排出量をネットゼロとすることが求められているところ、国際的なトランジション・ファイナンスに対する理解情勢に向けた取組を強化する必要 ②公的資金と民間資金を組み合わせた金融手法(ブレンデッド・ファイナンス)の開発・確立 ③サステナブルファイナンスの推進:有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄を設けるための必要な府令改正等の手続きを進める、グリーンウォッシュが懸念されるESG投信に係る監督指針を2022年度末までに策定、金融機関向けの気候変動ガイダンスを2022年7月に公表したところ2023年6月までに金融機関と企業との対話のためのガイダンスを策定、2023年6月までにインパクト投資に係る基本指針を取りまとめ、

国際展開戦略
(1)基本的考え方
:「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想を実現
(2)今後の対応
1)グローバル
:「グリーン鉄」「グリーンプラスチック」などグリーン製品普及のための国際評価手法の確立を進め、価値が適切に評価される市場形成を進める、企業の削減貢献を評価する新たな価値軸の構築を進める、
2)アジア
:「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」、「日ASEAN気候変動アクション・アジェンダ2.0」

社会全体のGXの推進
(1)公正な移行
1)基本的考え方
2)今後の対応
(2)需要側からのGXの推進
1)地域・くらしのGX
2)カーボンフットプリント等の排出量の見える化を含めた新たな需要創出策
:サプライチェーン全体での排出削減と製品・産業の競争力強化の観点から、カーボンフットプリントの算定に関するガイドラインを2022年度内を目途に策定し、ガイドラインに準拠したグリーン製品の官民調達を促進
(3)中堅・中小企業のGXの推進
1)基本的考え方
:中小企業は日本全体のGHG排出量の約2割程度を占め、サプライチェーン全体でのGXの取組が不可欠
2)今後の対応
:下請中小企業振興法「振興基準」に下請事業者の脱炭素化に係る取組を追加、パートナーシップ構築宣言の更なる拡大、中堅・中小企業も含めたサプライチェーン全体での脱炭素化の取組を促進

GXを実現する新たな政策イニシアティブの実行状況の進捗評価と見直し
:「GX実行会議」等による進捗評価、見直し、を次期通常国会提出法案に明記提出

ご紹介だけで長くなってしまいましたね。ここまでお付き合いくださって本当にありがとうございます。

最後に、私の感想とパブコメ意見も聞いてくださいね。

 先ずは、再エネの主力電源化と言いながら、同時発表の「原子力利用に関する基本的考え方」も併せ、原子力回帰の本音が透けて見える感じ、です。あぶはち取らず、どころか、原子力復活にかまけて結局、再エネの周回遅れをさらに2周回遅れにしてしまうのでは、と心配です。
 2点目は、水素とアンモニアを一緒くたにして(わざと?) いますが、N(窒素)とH(水素)では、酸素と結びついた結果の環境への影響がまるで違いますし、世界的に見ても研究や実証の進捗状況はまるで違います。これも、アンモニアにかまけて、また水素でも世界に周回遅れになるのではと心配です。
 3点目は、20兆円という多額の国債発行とその多くがトランジション・ファイナンスに回されそうなことです。私たち世代はすでに、コロナ禍で将来世代(孫、ひ孫)から莫大な借金をしています。GXに先行投資が必要というのは理解できますが、多量排出企業の移行(トランジション)と適応は、先ず以て当該セクターや企業の自助努力に拠るべきではないかと思います。

 ないものねだりかもしれませんが、全体に、技術主導・投資主導の内容で「将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会の実現を目指(す)」というものの、その「希望の持てる社会像」が見えてこないなぁと思いました。
 ただ、「中堅・中小企業のGXの推進」にも書かれているように、今後、数年内にはサプライチェーンGXの波が中小企業にもやってくるのは確実なようです。なるべく早く、GXを自社のチャンスにできる準備を始めてくださいね。