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フリーランス新法?

 2020年5月の内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」によると、従業員を雇用せず、実店舗を持たずに、自身で事業等を営んでいる、農林漁業従事者でない、法人経営者を含む、「フリーランス」は462万人と試算されています。
 報酬の支払遅延や一方的な仕事内容の変更といったトラブル事例も増えており、かつ、特定の発注者(依頼者)への依存度も高い傾向にあることから、国は、フリーランスの取引を適正化し、個人がフリーランスとして安定的に働くことのできる環境を整備するため、いわゆる「フリーランス新法」を予定していました。
 今月16日に閉会した臨時国会に法案が提出される予定でしたが、結局、提出されないまま閉会となりました。
 ただ、近い将来の立法もあり得、またそもそもフリーランスの方々に安心して取引や仕事をしてもらえるよう配慮することは契約の信義として必要なので、フリーランスを取引先にもつ企業の経営者の方々には、立法が予定されていた内容や、現状でも遵守すべき内容、をお知らせしますね。

「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」
 今年9月、法制化を前提としたパブコメがあり、その資料として法制度の方向性が示されました。
「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に関する意見募集の結果について|e-Govパブリック・コメント
PcmFileDownload (e-gov.go.jp)

 内容を簡単にご紹介しますね。

(1)フリーランスに業務委託を行う事業者の順守事項
 (ア)業務委託の開始・終了に関する義務
 ①業務委託に際して、業務の内容と報酬などを記載した書面(メール可)を交付しなければなりません。
  一定期間以上継続的な場合は、その期間、契約終了事由、中途解除の費用、の記載も必要です。
 ②契約を中途解除するとき、契約更新をしないとき、は、満了30日前までに予告しなければなりません。
  フリーランスから求められた場合は、契約の終了事由を明らかにする必要があります。
 (イ)業務委託の募集に関する義務
 ①募集の際には、情報等を正確・最新の内容に保ち、虚偽表示や誤解を生じさせる表示をしてはなりません。
 ②募集に応じた人には、上記(ア)①に準じた事項を明示しなければなりません。
 (ウ)報酬は役務提供を受けた日から60日以内に支払わなければなりません。
 (エ)禁止行為として次が示されました。
  フリーランスの責めに帰すべき理由のない、受領拒否、報酬減額、返品、給付内容変更、やり直し
  著しく低い報酬の一方的決定
  不要な商品・役務の購入・利用の強制
  不当な経済上の利益の提供要請
 (オ)事業者は就業環境整備としてハラスメント対策や出産・育児・介護との両立への配慮に取組むべきとされました。
(2)事業者が上記に違反した場合、助言、指導、勧告、公表、命令、の行政措置を受けます。
(3)違反事実の申告制度、申告を理由とする不利益取扱の禁止、もあります。

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」
              (令和3年3月26日 内閣官房 公正取引委員会 中小企業庁 厚生労働省)
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)に対するパブリックコメントの結果及び同ガイドラインを取りまとめました (METI/経済産業省)
20210326005-1.pdf (meti.go.jp)
20210326005-2.pdf (meti.go.jp)

 フリーランス新法の成立はありませんでしたが、現状で、現行関係法規によっても同様の規制を受ける場合があります。
 独占禁止法は、取引の発注者が事業者であれば、相手が個人の場合でも適用されます。
 下請法は、発注者が資本金1000万円超の法人事業者であれば、相手が個人の場合でも適用されます。
 フリーランスとして業務を行っていても、実質的に発注事業者の指揮命令を受けていると判断される場合など「雇用」に該当する場合には労働基準法や労働組合法が適用されます。
 
 発注事業者が発注時の取引条件を明確にする書面をフリーランスに交付しないことは、優越的地位の濫用となる行為を誘発する原因とも考えられ、独占禁止法上不適切であり、下請法の要件を満たす場合には同法3条の書面交付義務違反となります。
 優越的地位の濫用として独占禁止法上の問題となり、下請法の要件を満たす場合には同法で規制する禁止行為となる行為として、以下が示されています。
  ①報酬の支払遅延
  ②報酬の減額
  ③著しく低い報酬の一方的な決定
  ④やり直しの要請
  ⑤一方的な発注取消し
  ⑥役務の成果物に係る権利(知的財産権など)の一方的な取扱い
  ⑦役務の成果物の受領拒否
  ⑧役務の成果物の返品
  ⑨不要な商品または役務の購入・利用強制
  ⑩不当な経済上の利益の提供要請
  ⑪合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一方的な設定
  ⑫その他取引条件の一方的な設定・変更・実施
 
 具体例はガイドラインに詳しく紹介されています。
 
 このガイドラインではフリーランスを「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用してい収入を得る者」と定義しています。
 このような方を取引先にもつ会社では、一度、自社の対応をこのガイドラインに照らしてチェックしてみてくださいね。