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改正された公益通報者保護法が今年6月から施行されます

 公益通報者保護法とは、労働者が労務提供先の違法不正な事実を見聞きして、公益のために通報した場合に、解雇などの不利益取扱いを受けないよう保護する法律です。2000年代初めに企業の不祥事が相次いだことを受け、2004年6年に公布され、2006年4月から施行されています。
 政府広報オンラインサイトによると、2019年8月時点でも「事業者が不正を発見する端緒」は、内部通報が58.8%とダントツ1位を占め、2位の内部監査37.6%を大きく引き離しています。

 近年も社会問題化する事業者の不祥事が後を絶たないため、公益通報者保護法が2020年6月に改正、公布され、改正法は今年6月から施行されます。
 改正の趣旨は、ひとことで言うと、内部通報の促進と通報者保護の拡充、です。

では、改正点を具体的に見ていきましょう。


内部通報に対する対応体制の整備 (第11条「事業者がとるべき措置」)
 これは、従業員300人以下の中小企業者には努力義務とされ、これを超える事業者には法的義務となります。
 具体的には、「公益通報対応業務従事者」を定め、必要な体制整備その他の必要措置をとらなければなりません。

 さらにこの具体的内容は、指針とその解説に示されています。
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針 (caa.go.jp)
公益通報者保護法に基づく指針の解説 (caa.go.jp)
 「公益通報対応業務従事者」の決め方は、ひとことで言うと、通報者が特定される情報の共有範囲を必要最小限にしながら、通報内容に対する調査や処理を適正に遂行できるような範囲で、従事者がその任務を自覚できるように、決める必要があります。
 「必要な体制整備その他の必要措置」については、部門横断的に、独立性の確保や利益相反を排除し、通報者保護に十全を期しつつ、相談しやすい窓口の設定が必要で、通報者特定情報などの情報管理や通報者探索や推定通報者への不利益対応を防止することが必要で、日頃からも研修の実施や規定の整備、通報記録の管理、などが必要です。

 公益通報対応業務従事者には、罰金刑を伴う守秘義務が課せられています(第12条、第21条)。
 事業者の対応体制整備に対しては、行政による実行性確保のため、助言、指導、勧告、公表の行政措置もあります(第15条、第16条)。

外部機関通報の要件を拡充(第3条2号、同3号)
 通報先には、労務提供先(内部通報)の他、規制権限のある行政機関、と、報道機関等、があります。優先順位はありませんが、これら外部機関へ通報する場合はその条件が内部通報に比べて厳しく設定されています。
 今回の改正では、これら外部機関への通報条件が従前に加えて拡充されました。

○規制権限のある行政機関等に通報する場合
 通報条件として、通報者がその氏名等を明記して書面等で通報する場合が、新たに通報条件として追加されました。ちなみに、公益通報保護法では匿名でも通報できるのが基本です。
 通報を受けた行政機関のとるべき措置(対応体制の整備など)も規定されました(第13条)

○報道機関等(労働組合、消費者団体、他)に通報する場合
 通報内容の条件の一つである「生命・身体に対する危害」に、「財産に対する損害(回復困難又は重大なもの)」も追加されました。
 通報条件として、内部通報では通報者特定情報が漏洩される可能性が高い場合、が追加されました。

通報者保護の拡充(第2条、第7条)
 通報主体について、従前からの労働者、派遣労働者、請負労働者、に加え、退職者(退職後1年以内)や役員も追加されました。趣旨は、退職者や役員も、不利益取扱いから保護することで、公益通報を促進しようということです。
 通報内容についてですが、実は、通報者が主観的に違法不正と判断するあらゆる事実が対象となるわけではありません。公益通報保護法では、同法による保護の対象となる事実を、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護を直接目的とした法律であって刑事罰により実効性が担保されている法律、に違反する行為、としています。今年1月時点で480本の法律が列挙されています。
 今回の改正では、刑事罰に限定せず、過料(行政罰)対象行為も含めることとしました。
 保護の内容にも、従前の、解雇無効、派遣契約解除無効、降格等不利益取扱い禁止、に加え、損害賠償責任の免除、役員を解任された場合の損害賠償請求、を追加しました。

 公益通報者保護法が公布、施行された頃は、公益通報者が会社で経営陣のみならず上司や同僚からも「裏切者」扱いされるような風潮がありました。
 しかし、前記ご紹介した政府広報オンラインサイトの事業者アンケートでは、内部通報制度を導入した効果として、「違法行為への抑止力として機能」49.4%、「自浄作用による違法行為の是正機会の拡充」43.3%、となっていて、公益通報制度が問題の早期発見や組織の自浄作用を高めるのに役立つことへの理解が広がっています。

 今回の改正で、従業員300人以下の中小企業は、内部通報の体制整備は努力義務とされましたが、自社のコンプライアンスを高めるために、出来ることから実情に応じて、対応を進められてはいかがでしょうか。