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夫婦別姓 最高裁判決

 今月23日、最高裁大法廷(裁判官15名全員)は、夫婦同姓を定める民法、戸籍法の規定は憲法に違反しない、との決定を出しました。
 「夫は夫の氏、妻は妻の氏」と記載した婚姻届について、夫婦同姓を規定する民法750条、戸籍法74条1項に違反することを理由とした不受理に対し、これら規定の憲法14条1項(法の下の平等、性差別禁止)、同24条(家族における個人の尊厳と両性の平等)、同98条2項(条約・国際法規の遵守)、との合憲性が問題とされていました。
 平成27年12月16日の大法廷判決が合憲判断だったので、今回の大法廷回付には「いよいよ違憲判断か?」と期待が寄せられていましたが、結果は平成27年大法廷判決を踏襲するもので、夫婦の氏についての制度の在り方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」と、立法府に下駄を預けてしまいました。

 ただ、最高裁の結論は多数決による全員一致のため合憲判断となりましたが、3名(宮崎裕子裁判官、宇賀克也裁判官、草野耕一裁判官)の反対意見、三浦守裁判官の意見(内容は反対意見)、があり、特に、宮崎・宇賀両裁判官による反対意見は、詳細な違憲論が展開され、とっても読みごたえがあります。私なんぞは思わず「もしかしたら最高裁の真意はこれかも」「もしかしたらずぅっとサボっている国会に『三度目は無いよ』ってことかも」なんて期待してしまいます。

 宮崎宇賀反対意見は夫婦同氏制に例外を設けていないことを違憲と考えるのですが、その違憲の理由から、いくつかご紹介しますね。

 先ずよく言われる、夫婦同氏は我が国古来の美風(伝統)である、という論に対して、
「そもそも氏が家族の呼称としての意義を有するとする考え方は、憲法上の根拠を有するものではない。(振り返ると、我が国でもかつては夫婦別氏制であった時代があったが、その制度が、明治31年施行の旧民法によるいわゆる「家」制度の採用に伴って夫婦同氏制に改められ、その後「家」制度は現行憲法の制定とともに廃止されたものの、夫婦同氏制は維持されたという歴史をたどったことは一般的に知られている。旧民法においては、氏は「家」の呼称であり、その結果として夫婦同氏制となったのであるが、「家」制度を前提としない現行憲法の制定過程において夫婦同氏制の憲法適合性について十分な議論がなされたことはうかがわれない。)」
 平成27年大法廷判決が拠り所とした、氏が家族の呼称としての意義を有することが夫婦同氏制の合理性の理由、に対しても
「夫婦・家族の実態についてみると、日本国民の夫婦及びその未婚の子から成る世帯は、もはや典型的な世帯ではない。平成30年の統計によれば、夫婦及びその未婚の子から成る世帯は、3割を切っており、夫婦のみの世帯も4分の1に満たない。」

 次に、憲法98条2項が問題とされているのは、すでに我が国で国内的効力を有する女性差別撤廃条約との関係です。
 女子差別撤廃条約は1981(昭和56)年に発効しており、日本は1980(昭和50)年に締結し、1985(昭和60)年には国会で批准され、公布もされています。憲法98条2項により、条約は公布とともに国内的効力を有すると解されています。女子差別撤廃条約は16条1項で、夫婦のそれぞれが姓を選択する権利の保障を法的拘束力を持たせる趣旨で締約国に求めています。
 そして、宮崎宇賀反対意見は、
「女子差別撤廃委員会は、日本政府に対して、2003年(平成15年)7月に、夫婦同氏制を定める我が国の民法の関連規定が、夫婦同氏を強制するものであって、夫と妻に同一の個人的権利として「姓を選択する権利」を与えていないことは、女子差別撤廃条約上の「女子に対する差別を温存、助長する効果のある制度」に当たる旨指摘し、それ以来繰り返し同条約に従ったこの制度の是正を要請してきた。日本政府は、女性差別撤廃委員会のこの解釈を争うことなく、指摘された問題に対応するための法改正(民法750条の法改正)を行う方針であると説明してきていながら、立法機関である国会がその法改正措置を実施しない状態が長年にわたって継続している。」
「婚姻に当たり夫婦が同氏となることを義務付ける我が国の夫婦同氏制のような法制度は、外国には見当たらず、そのことについては(略)すでに締約国数が180箇国を超えている同条約が大きく貢献していたと考えられるところである。このように夫と妻に個人的権利として姓を選択する権利を与えることが世界の趨勢となっている(以下略)」

 実は私も、結婚に際して氏を変えました。当時、事実婚で夫婦別姓を選択するカップルも増えていましたが、事実婚では生まれてくる子供にいろいろ不都合が生じそうと思ったからです。
 幸い弁護士会は「旧姓通称使用」を認めつつあった頃だったので、登録時から仕事上の名前は旧姓のままにしていました。ただ、弁護士会が、業務広告に関する規定の立案段階で「通称使用」のことを全く考慮していなかったと知ったときは、想定内とはいえ、かなり失望しました。
 不便を痛感した思い出はパスポートです。特に、弁護士会の視察や仕事がらみの海外視察のときは、航空券がパスポート氏名なのでいちいち説明しなければならず、離婚したら今度は別のページに修正が記載されるため、入管でいちいち説明しなければなりませんでした。ある時、米国の入管で黒人女性の審査官に説明したら、「Married?(結婚されたのですか?)」と聞かれたので、「No,Divorced(いいえ、離婚したんです)」と答えたら、ニッと笑って「Congratulations!(おめでとう!)」と言われました。これが唯一、楽しい思い出です。

 みなさまは宇賀宮崎反対意見を読んでみて、どう思われましたか?

 私たちはもっと国会のお尻を叩いて、そもそも国会議員をちゃんと選んで、「世界の趨勢」に取り残されない日本にしていかなければなりませんね。