相続登記が義務化されます。所有者不明土地問題
最近、都市部でも郊外でも空き家や耕作放棄地、放置林、をよく目にするようになりましたね。
今年4月、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しにもとづく、民法と不動産登記法の改正、相続土地国庫帰属法、が成立・公布されました。
今回は、登記義務化と相続土地国庫帰属法の内容をお知らせし、次回に民法(共有、相隣関係、相続)の改正内容をお知らせします。
「所有者不明土地」の定義は、
①不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地
です。
このような土地は全国で約2割もあるそうです。空き家や耕作放棄地、放置林のすべてがこれでないとしても、多くはそうなのでしょうね。復旧・復興の公共事業や民間の土地取引が進まず、隣接地への悪影響、ひいては国土荒廃につながりかねません。地方の高齢化過疎化で今後ますます深刻化する恐れがあります。
そこで、その対策が3つの側面で立てられました。
*発生予防その1
幸い日本は住民登録や不動産登記の制度が整備されているので、相続登記と住所変更登記がきちんと為されれば、所有者不明土地の発生を予防できます。
相続登記と住所変更登記の義務化と合理化があらたに決められました。これは後で詳しく説明しますね。
*発生予防その2
実家を離れて生活の本拠を築いた人も多くなり、土地なら価格は右肩上がり、の時代も終わり、相続や遺贈で土地を引き継ぐことがむしろ負担になってきています。
相続等により土地の所有権を取得した場合に、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度が新たに創設されました。相続土地国庫帰属法です。これも後で説明しますね。
*土地利用の円滑化
所有者不明土地の隣地への悪影響、所有者不明土地の管理不全、に対する対策として、民法の共有関係や相隣関係、相続に関する規定を改正、さらに新たに所有者不明土地の管理制度等を創設しました。
これは説明が長くなるので、次回に回しますね。
相続登記の義務化:(改正)不動産登記法76条の2~
正確に言うと、これは現状の相続登記をそのまま義務化するわけではありません。
「相続人申告登記」という新たな申請義務です。
相続(特定財産承継遺言を含む)や遺贈(相続等といいますね)により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記官に申し出る義務です。必要書類は、自分が相続人であることが判る戸籍謄本で良いです。なお、その後に遺産分割協議が成立した場合はその内容を踏まえた登記申請も必要です。
「正当な理由」が無いのに登記申請義務に違反した場合には10万円以下の過料もあります。
施行は公布(令和3年4月28日)から3年以内の政令で定める日からですが、施行前の相続にも適用されます。施行日が決まったら3年以内に申請が必要です。
所有不動産記録証明制度:(改正)不動産登記法119条の2
ある人が所有名義人になっている不動産登記を全部集める、いわゆる「名寄せ」申請はできません。
しかし、相続人にとって、被相続人(無くなった方、例えば亡実父)が持っていた土地や建物の全部を知らなければ、相続登記申請もできません。
ただ、だれでもどの人のでも名寄せできるとなると、個人情報保護はじめ何かと弊害も考えられます。
そこで、自分自身と相続人その他の一般承継人に限り、所有不動産の名寄せ、すなわち「所有不動産記録証明書」の交付が受けられるようになりました。
関連して次の改正もされました。
所有名義人の死亡等(権利能力喪失)を符号で登記に表示((改正)不動産登記法76条の4)
住所変更登記の義務化:(改正)不動産登記法76条の5~
不動産の所有名義者は、住所変更日から2年以内にその変更登記申請が義務化されました。
「正当な理由」が無いのに申請を怠った場合は5万円以下の過料があります。
施行は公布(令和3年4月28日)から5年以内の政令で定める日からですが、施行前の住所変更にも適用されますから、登記簿上が住所が古いままになっている方は施行日が決まったら2年以内に申請が必要です。
上記申請の他に、職権による変更登記も導入されました。
所有名義人が自然人(人間のことです)の場合は事前の申出を条件に住基ネットから、法人の場合は法人等登記情報との連携によって、職権で変更登記がされます。
今回、法人番号も登記事項となりました。
なお、職権変更登記が為された場合は登記申請義務は履行済みとなるとのことです。
関連して次の改正もされました。
・所有名義人が国内に住所を有しないときの国内連絡先が登記事項となりました。
その他、不動産登記の公示機能をより高める観点から、次の改正もされました。
・形骸化した登記の抹消手続きの簡略化
買戻し特約((改正)不動産登記法69条の2)
地上権等((改正)不動産登記法70条2項)
解散した法人の担保権((改正)不動産登記法70条の2)
・DV被害者保護((改正)不動産登記法119条6項)
・登記簿附属書類の閲覧基準の合理化((改正)不動産登記法121条)
相続土地国庫帰属制度(「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」)
土地に対する社会経済情勢の変化を反映して、相続や遺贈によって土地を取得した相続人が、一定の要件のもと法務大臣の承認を得て、負担金(10年分の管理費相当額)を納付のうえ、その土地を国庫に帰属させることができる新たな制度です。
要らない土地や面倒な土地を国に引き取ってもらえるの?と思ったら大間違いです。厳しい要件があります。
公布日(令和3年4月28日)から2年以内の政令で定める日から施行されます。
申請権者
相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限ります)により土地の所有権又は共有持分を取得した者
土地の要件
・却下要件
建物在り、抵当権や賃借権など有り、政令で定める他人使用予定土地、土壌汚染あり、境界不明や所有権に争いあり、の土地は、そもそも申請が認められません。
・不承認要件
崖あり、有体物が地上や地下に在り、裁判を要さず通常の管理・処分ができない、など通常の管理や処分をするに過分の費用や労力を要する土地、でないことが承認される要件です。
負担金
参考として、現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、粗放的な管理で足りる原野約20万円、市街地の宅地(200㎡)約80万円、が示されています。
国庫に帰属した土地は、国の普通財産として、農用地や林地は農林水産大臣が、それ以外は財務大臣が、それぞれ管理・処分することになります。
今回はここまでです。
次回は、民法(共有、相続、相隣関係)の改正点をご説明しますね。