来年4月から中小企業もパワハラ防止義務化されます。
昨年6月に施行された、いわゆる「パワハラ防止法」、正確には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称「労働施策総合推進法」)の改正(同法30条の2~)による事業主のパワハラ防止義務が、来年(令和4年)4月からは中小事業主にも義務化されます(現在は「努力義務」とされています)。
その中小事業主とは、
・サービス業(小売、卸、以外)なら、従業員100人以下または資本金5000万円以下
・製造業など(小売、卸、サービス業、以外)なら、従業員300人以下または資本金3億円以下
のすべての事業主が対象です。
パワーハラスメントの定義
職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる、以下の行為です。
①優越的な関係を背景とした言動であって
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境が害されるもの
これを詳しく見ていきますと
・「優越的な関係」には、地位が上はもちろん、同僚や部下でも知識や経験における優越、集団化による優越、も含まれます。
・業務上「必要かつ相当な範囲」か否かは、当該職場や加害者の主観ではなく、社会通念に照らして判断されます。
・職場環境が「害され」たか否かは、労働者の能力発揮に重大な悪影響が生じるなど当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じる必要がありますが、その判断は、「平均的な労働者の感じ方」、即ち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準として、判断されます。
・「労働者」には、非正規も含め雇用するすべての労働者が含まれ、派遣労働者(派遣先における)も含まれます。
具体的には、代表的な言動が6つの類型で示されています。
身体的な攻撃(暴行・傷害)
精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること、性的志向や性自認、不妊治療等の暴露も含まれます)
パワハラ防止対策
1 義務化された対策
事業主として講ずるべき「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」は、以下になります。(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号、いわゆる「パワハラ指針」)
⑴事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
トップメッセージとして「パワハラは許さない」旨を方針として明確にし、就業規則の服務規律にも明記して、周知、啓発します。
⑵相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口(社内、社外)を決めて周知するとともに、相談窓口担当者の研修も必要です。
外部相談窓口を顧問弁護士に依頼することもご検討くださいね。
⑶職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
被害申請者、行為者、必要に応じて関係者からのヒアリングにより、事実関係の調査を迅速かつ正確に行います。
事実関係調査によってパワハラの事実が確認された場合、被害者には配慮措置(謝罪、被害救済、など)、行為者には懲戒など厳正な措置を執ります。
パワハラが確認できなかった場合も含め、再発防止の措置を講じてください。
⑷⑴から⑶までの措置と併せて講ずべき措置
相談対応や事実関係調査では、関係者のプライバシー保護などの措置を執ることも必要です。
不利益取扱いの禁止(法第30条の2第2項)
パワハラ相談をしたことや、パワハラ調査などに協力して事実を述べたことを理由として、解雇、更新拒否や不利な配置転換など「不利益な取扱い」をしてはいけません。
2 望ましい対策
さらに、法的義務ではありませんが、以上の義務的措置に加えて次のような取り組みも示されました。
⑴望ましい取組
・ハラスメント窓口の一元化
・コミュニケーション研修や時短、業務目標の適正化や体制整備
・労働者を巻き込んだPDCA(アンケートや意見交換による措置の現状把握と継続的改善)、これには指針で労働安全衛生法18条の衛生委員会の活用も示唆されています。
⑵雇用労働者以外の者(就活生など)
取引先など他社の労働者やフリーランス、インターンシップや就活の学生・求職者、も措置対象、準用に。
⑶他社(者)からのパワハラ
取引先や顧客からの自社労働者に対するパワハラにも措置対象を広げる。
3 紛争解決援助
「雇用管理上の措置等」義務化に合わせ、都道府県労働局による紛争解決援助(法第30条の5)、調停(法第30条の6~)の利用ができるようになります。
4 報告・罰則・公表
・不利益取扱いについて労働局から報告を求められることもあります(法36条)
・報告を拒否したり虚偽の報告をすると過料があります(法41条)
・助言、指導又は勧告、と、違反者が勧告に従わなかった場合の公表があります(法33条)
パワーハラスメントの難しいところは、適正な指導との区別です。客観的な区別もそうですが、世代間の感性の差もあって、熱血精神主義で育った昭和世代の想いがデジタルネイティブ世代には伝わらない、ということは良くあります。「そこに『愛』はあるんか?・・」というのもありますが、やはり表現や方法に合理的な工夫は必要です。
法律で新しい制度が決められて措置が義務化されると、「中小企業にまで・・?」「中小企業には無理・・」と考えがちです。パワハラ指針には難し気な言葉が並んでいますが、実際にはそこで要求されている内容はそれほど難しいことではありません。むしろ中小企業こそ、規模の小ささや個性が生かせる特性を逆に活用して、やる気と知恵(工夫)さえあれば、十分、対応できます。
厚生労働省では以前からハラスメント専門サイト「あかるい職場応援団」を開設し、研修用の動画など多彩な資料が活用できるようになっています。お金をかけない工夫として、活用できますよ↓
あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト- (mhlw.go.jp)