ブログ

IEA「エネルギー技術の展望2023」

IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)は、第1次石油危機後の1974年、当時のキッシンジャー米国務長官の提唱によって設立された、OECDの枠内における自律的な機関で、事務局はパリにあります。エネルギー問題に関しては、世界最高峰の機関です。メンバー資格は、OECD加盟国であって、備蓄基準(前年の当該国の1日当たり石油純輸入量の90日分)を満たすこと、だそうです。
活動目的に、エネルギー安全保障の確保(Energy Security)、経済成長(Economic Development)、環境保護(Environmental Awareness)、世界的なエンゲージメント(Engagement Worldwide)、の「4つのE」を掲げています。

今年1月、IEAのエネルギー技術に関する主力報告書「エネルギー技術の展望2023」が公表されました。

エネルギー技術の展望2023–分析-IEA

上記サイトからレポート全文もダウンロードできますが、英文で464頁もあるので、サイトに掲載されているサマリーから、その内容をご紹介しますね。

このレポートは、将来のクリーンテクノロジー産業のための世界初のグローバルガイドブックとして機能することが意図されています。

IEAの分析によると、世界中の国々が発表されたエネルギーと気候の誓約を完全に実施した場合、主要な大量生産クリーンエネルギー技術の世界市場は、2030年までに年間約6500億USドルの価値があり、これは現在のレベルの3倍以上になります。
関連するクリーンエネルギー製造の雇用は、現在の600万人から、2030年までに1400万人近くに倍増し、これらの仕事の半分以上が、電気自動車、太陽光発電、風力およびヒートポンプに関連しています。2030年以降も、クリーンエネルギーへの移行が進むにつれて、さらなる急速な産業と雇用の成長につながると見込まれます。
クリーンエネルギー投資は2022年に1.4兆米ドルに達し、2021年と比較して10%増加し、エネルギー部門の総投資の成長の70%を占めています。ただ、化石燃料も依然として一次エネルギーミックスの80%を占めています。
クリーンエネルギー技術の導入を、気候目標を達成するために急速に加速する必要があります。2050年ネットゼロエミッション(NZE)シナリオによれば、電気自動車の世界生産は2030年までに6倍に増加します。再生可能エネルギーは発電量の90%以上を占めています(現在の30%から増加)。
NZEシナリオにおけるクリーンエネルギー部門の雇用は、2021年から2030年にかけて3300万人から7000万人に急増し、化石燃料関連部門の850万人の損失を相殺します。

他方で、クリーンエネルギー技術の現在のサプライチェーンには、資源の採掘と加工、および技術製造が地理的に集中しているリスクがあることも指摘しています。というのも、現在は中国がほとんどのクリーンエネルギー技術の製造と貿易を支配しているからです。ソーラーパネル、風力、EVバッテリー、電解装置、ヒートポンプなどの技術は、3大生産国が各技術の製造能力の少なくとも70%を占めており、そのすべてで中国が支配的なのだそうです。重要な鉱物の採掘の大部分も、少数の国に集中し、たとえば、コンゴ民主共和国は世界のコバルトの70%以上、中国は希土類元素(REE)の60%、インドネシアはニッケルの40%を生産しています。オーストラリアはリチウム採掘の55%を占め、チリは25%を占めています。これらの鉱物の処理も非常に集中しており、中国はREEの90%、リチウムとコバルトの60〜70%の精製を担当しています。中国もバルク材料の供給を支配しており、世界の粗鋼、セメント、アルミニウムの生産量の約半分を占めていますが、ほとんどは国内で使用されています。

コロナパンデミックとロシアのウクライナ侵攻に起因する最近のサプライチェーンの混乱は、急速に増大する需要と相まって、材料とエネルギーのコストを劇的に増加させました。リチウムの平均価格は、2022年には2019年のほぼ4倍、コバルトとニッケルの平均価格は2倍になりました。2022年初頭のバッテリー金属価格の上昇により、バッテリーの価格が上昇し、2021年と比較して世界的に10%近く上昇しました。太陽光発電グレードのポリシリコン、銅、鉄鋼の価格はすべて、2020年前半から2022年にかけて約2倍になりました。これらの上昇は、PVモジュールの価格を25%、中国国外の風力タービンの価格を最大20%押し上げました。

このような状況に対して、主要経済国が、気候、エネルギー安全保障、産業政策を、経済のためのより広範な戦略に統合するために行動していることを評価しています。米国のインフレ削減法、欧州連合のFit for 55パッケージとREPowerEU計画、日本のグリーントランスフォーメーションプログラム、太陽光発電とバッテリーの製造を奨励するインドの生産連動インセンティブスキーム、中国の最新5カ年計画の目標達成、などを挙げています。
そして、このような各国の政策は、クリーンエネルギープロジェクトの開発者と投資家に選ばれるものである必要を指摘しています。建設中あるいは建設予定のプロジェクトが結局、何処に行き着くかは、その選択に拠って決まるからです。

クリーンエネルギー技術サプライチェーンにおける国際貿易の重要な役割も強調されています。各国はサプライヤーの多様性を高める必要があると指摘されています。世界中で生産される太陽光発電モジュールの60%近くが国境を越えて取引されており、中国で製造されたソーラーモジュールの約半分が、主にヨーロッパとアジア太平洋地域に輸出されています。EVも同様で、部品の貿易の大半がアジアから欧州に流れ、欧州はEVバッテリーの約25%を中国から輸入しています。風力タービンのコンポーネントは重くて嵩張るのに、タワー、ブレード、ナセルの国際貿易は非常に一般的だそうです。中国は風力タービン部品製造の主要なプレーヤーであり、世界の生産能力の60%、総輸出の半分を占めており、そのほとんどが他のアジア諸国やヨーロッパに向けられています。

重要な鉱物資源の地理的分布が不均一であることを考えると、供給の安全保障を確保するためには、国際協力と戦略的パートナーシップが不可欠です。新しい鉱山開発には10年以上の長いリードタイムが必要です。重要な鉱物の供給がクリーンテクノロジー製造の主要なボトルネックになるリスクを高めます。将来の展開に関する明確な政策シグナルは、このセクターへの投資のリスクを軽減するために特に重要と指摘しています。
中国は、2030年までに発表された銅の追加生産能力の80%を占め、バッテリーに使用される主要金属の精製能力の発表を支配しています(コバルトは95%、リチウムとニッケルは約60%)。現在世界中で計画されている鉱物処理能力の拡張は、クリーンエネルギー技術の迅速な展開に必要な量をはるかに下回っています。太陽光発電サプライチェーン用のポリシリコンが現在、2030年までに容量の余剰が期待できる唯一の分野です。

要するに、クリーンエネルギー経済への移行は不可避であり、莫大な投資、イノベーション、雇用創出、の可能性が明らかである一方、技術的可能性から見ると、現状の、原材料と製造技術の偏在、と、サプライチェーン、のままでは、複数の重大なボトルネックが在って、これを克服するには各国の政策的リーダーシップと協力しかない、ということのようです。

ちょっと気になったのは、水素やアンモニアの製造コストは、日本や西ヨーロッパよりアメリカや中国のほうがずっとお安い、という表です。日本のGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針では、アンモニアや水素に力を入れるとしていましたが、大丈夫なんでしょうか?
賢い官僚の方々はもちろん、こういう国際機関のレポートも読み込んで立案されているはずですから、信頼したいと思います。