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DXはUX 本のおススメ

 おススメしたい本は、
「アフターデジタル オフラインのない時代に生きる」(著者は藤井保文氏と尾原和啓氏)

「アフターデジタル2 UXと自由」(著者は藤井保文氏)
です。
 いずれも日経BP社です。著者の藤井保文氏は、株式会社ビービットの上海支社で日系企業に対して「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」を行っておられる方です。

 この本は、富士フィルムのオンラインセミナーで、著名エバンジェリストの中山五輪男(いわお)氏が、中小企業のDXをテーマにした基調講演のなかで、「この本には金づちで頭をガーンと殴られたような衝撃を受けた」と紹介されたので、それは読まなくちゃ!と思ったわけです。
 読んでみて確かに、面白い!、DXを考えるには必読書だ!、と思ったので、皆さまにもおススメする次第です。

 アフターコロナはDX(デジタルトランスフォーメーション)と言われ続けていますが、DXの具体的イメージが掴めないなぁと悩んでいました。皆さまもそうではないですか?

 当事務所でも昨年春以降、あらゆる資料をスキャンしてクラウドストレージに保存し、事務所まるごとパソコン化を進めてきました。事務所のパソコンを買い替え、大きめのノートパソコンも自宅に備え、自宅でもほぼ事務所同様に仕事ができるようにしました。OfficeもMicrosoft365Businessに代えて、スケジュール管理を弁護士手帳からOutlookにシフトし、新聞の電子版に加えて書籍も電子書籍で購入するようにしました。TeamsやZoomでオンライン相談もできるようになりました。ほぼデジタル化したつもりなのですが、何か足りないなぁ、とモヤモヤしていました。

 「アフターデジタル」と「アフターデジタル2」を読んで、そのモヤモヤが吹っ切れた感じがしました。DXした新しい事務所のイメージがおぼろげながら見えてきた感じがします。この一年余りでやってきたことは、エバンジェリスト五輪男氏の言葉を借りれば、まだトランスフォーメーションとはいえず、その前の段階のデジタライゼーションだそうです。しかし、DXの始めの一歩は踏み出せているようです。

 DXデジタルトランスフォーメーションというと、デジタル化すること?というくらいの認識でした。「アフターデジタル」は、そのネーミングのとおりデジタル化の後、すなわち、世の中すべてがデジタル化した世界、オンラインが基盤になった社会です。「リアル世界がデジタル世界に包含される」図式は、判りやすく、衝撃的です。DXしたいなら、今までどおりのリアル世界に軸足を置いたまま便利で都合の良いところをデジタル化する、という考えを先ずは捨て去るべき、ということです。

 マーケティングの知識は無いのですが、顧客接点の頻度を上げること、は教えてもらったことがあります。デジタルを使えば、顧客接点の頻度を飛躍的に上げることができます。こうして膨大な顧客データを貯め込むことも可能になったわけですが、要はその使い方(分析)です。エバンジェリスト五輪男氏によれば、21世紀の資源となったデータは20世紀の資源だった石油と似ている、のだそうです。つまり、そのままでは使い物にならず「精製」(データなら分析)しなければ使えない、ということです。
 そして、顧客ターゲティングの視点や方法を、今までの「属性(性別、年代、職種など)」分析でなく、「状況」にすべきといいます。顧客は、その時々に置かれた「状況」に応じて、欲しいモノやコトを、自分にもっとも都合良く便利な方法で手に入れたいだけ、だからです。
 確かに、自分が顧客の立場で考えればそのとおりですよね。
 「アフターデジタル」では、DX企業の実例として中国のアリババやディディ、平安保険が紹介されています。
 ディディは中国のタクシー配車サービスですが、最近、私も日本のタクシー配車アプリ「GO」を使ってみました。もちろん私は中国のディディは知らないのですが、「GO」は今までのタクシー体験から比べても、格段に便利です。これが子育て時代や息子がインフルエンザで週末の真夜中に高熱を出したときにあればなぁ、とつくづく思いました。GOアプリを使ったのは、猛暑のなか少しフォーマルな場に招待されたとき、大きな荷物を自宅から事務所に運びたいとき、だったのですが、こういう「状況」って、私の「50代、女性」という「属性」とは関係ないですよね。

 「アフターデジタル」は、コロナパンデミック前の2019年に書かれたものですが、「アフターデジタル2」は、2020年の夏に出版されました。2冊を一気に読むのは少し大変でしたが、読んでみて、やはり2冊ともおススメします。
 「アフターデジタル」は未だ、高度なデジタルマーケティングのノウハウ本という感じ(門外漢の私がおこがましくてごめんなさい)もしましたが、「アフターデジタル2」になると、著者の考察も深まり、より高い視点で、思想性さえ感じられます。ちょっと感動しました。日本のDXに対しても、より詳しく、より鮮明で、むしろ「アフターデジタル2」こそ、皆さまに是非、おススメしたいと思います。
 「アフターデジタル2」のキイワードは、サブタイトルにもある「UX」と「自由」です。
 UXとはユーザーエクスペリエンスのことです。「顧客体験」と訳されますが、私の解釈では、顧客としての「使い勝手」「便利さ」といった感じです。
 日本のマスコミを通じて中国を見ていると、中共政府の独尊的態度や監視社会のネガティブなイメージしか映りません。しかし、「アフターデジタル」「アフターデジタル2」では、中国巨大企業の意外にも謙虚な顧客ファーストの理念、顧客から提供してもらったデータは顧客のために使う、という考え方が随所で紹介され、その顧客目線には学ぶべきという主張が一貫しています。
 「アフターデジタル2」のあとがきには「DXの目的は新しいUXの提供」と、2冊を通じた結論が明言されています。なので、このブログのタイトルも「DXはUX」としました。
 では、「新しいUX」とは何でしょう?
 ある困った状況に置かれた顧客が、その「困った」を自分の思うように解決してもらえたら、「幸せ」って感じますよね。自分が望んだとおりの「状況」になること、それはまた「自由」とも言えます。
 「アフターデジタル2」のエッセンスは、同書の第4章です。ここは必読です。著者としても力を入れて書かかれたようで、この章の内容を説明するYouTube動画まで付いています。この動画を先に見ることもおススメします。
 「自由」には英語でいうとfreedomフリーダムとlibertyリバティの2種類があって、フリーダムは不自由から解放される自由、リバティは望むことを実現できる自由、とそれぞれ違います。経済発展を遂げて物質的に豊かになった社会(たとえば日本)では、価値観も幸福像も多様化し個性化します。
 つまり、顧客体験UXユーザーエクスペリエンスも、「困った」を解決してもらった「満足」では足りず、顧客の期待や想像を超える「感動」、「世界観の提示」が必要、というわけです。この意味は簡単には説明できないので、「アフターデジタル2」でじっくりお読みいただければと思います。

 今や、民間企業がデジタルテクノロジーを駆使して多くの顧客に魅力あるUXを提供しながら、その力で人々の行動様式さえ変えてしまうパワーを持てるようになりました。今までは国や行政が法律や規範で行ってきた社会設計に、民間企業もその一端を担える可能性が出てきたということです。
 そのような力を持つようになった企業はその社会的責任として、どんな世の中にしたいのかという「企業家精神」が不可欠だと著者は強調します。

 DXに関する本といえば、メタリックでキンキンしたハウツウ本という先入観がありましたが、この本には熱いヒューマニズムを感じました。
 私の知識不足や理解不足もあって、まだまだこの本の内容を十分かつ正確にはお伝えできていないと思います。それでも御関心を持っていただけた方には是非、ご自身で読んでみられて、自社と日本社会のDXについて考えてみられることをおススメします。