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気候変動は経営課題

 7月21日、第6次エネルギー基本計画の素案が示されました。
    概要 046_004.pdf (meti.go.jp)
    素案 046_005.pdf (meti.go.jp)
 同日付の産経新聞報道と大和総研によれば、今後は8月中にパブリックコメントを踏まえた改定案を示したうえで、10月中の閣議決定を目指しているそうです。
 概要の12頁から素案の内容を見てみましょう。

「2030年ミックス」(野心的な見通し*赤いアンダーライン)とあるように、実現可能性にはいろいろ指摘されています。

 原子力は「現状維持」の20~22%ですが、新増設が無く、現施設の再稼働頼みということは、50年超え稼働させるのでしょうか?
 再エネを現行の22~24%から36~38%に大幅に引き上げたことは大いに評価できます。ただ、以前は欠点ばかりあげつらっていた太陽光や陸上風力に、手のひらを返して期待をするのは良いのですが、現状すでに顕在化してきた乱開発や廃棄の問題にもきちんと解決を示してほしいです。
 そもそも、思い切った省エネが前提とされているのですが、IoT化、AI、クラウドの電力大消費社会になるのに大丈夫なのでしょうか?
 文句を付けだしたらキリがありませんね。それは策定にかかわった方々も十分承知なのでしょう。夏休みの終わりになって、サボっていた宿題をまとめてやらなくちゃってときに、ガミガミ言っても仕方ないですよね。

 こんなに無理なエネルギー基本計画を立てなくてはならない理由は、言うまでもなく、温室効果ガスを削減して気候変動を「緩和」しなくてはならないからです。
 2015年、パリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすることを合意しました。これが「パリ協定」ですね。
 そして、COP21の決定は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に対し、1.5度の地球温暖化による影響とそこに至る温室効果ガスの排出経路についての特別報告書の作成を招請しました。これを受けてIPCCが気候変動に関する最新の科学的知見として2018年10月に公表したのが「1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する IPCC 特別報告書」です。これが「1.5特別報告書」とよばれるものです。
 このIPCC「1.5度特別報告書」には、産業革命以降の温度上昇を1.5度以内におさえるという努力目標(1.5度努力目標)の達成には、2050年頃までにCO2の排出量を正味ゼロ(カーボンニュートラル)にする必要が報告されました。これを受けて、世界が「2050年カーボンニュートラル実現」を目指して動き始めたのです。

 1.5度特別報告書では、50年カーボンニュートラルを実現しても、平均気温上昇による人類社会への様々な影響は避けられないとしています。そこで、これに対する「対応」として求められたのが、「緩和」すなわち排出削減、に加えて、「適応」です。

 「緩和」については、日本はCOP3京都議定書を受けて早速、「地球温暖化対策推進法」を1998(平成10)年に成立させています。
 今年5月、「地球温暖化対策推進法」が改正されました。改正点は次の3点です。
(1)パリ協定・2050年カーボンニュートラル宣言等を踏まえた基本理念の新設
(2)地域の再エネを活用した脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認定制度の創設
(3)脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進等
 このうち(3)は、企業の温室効果ガス排出量に係る算定・報告・公表制度について、電子システムによる報告を原則化するとともに、これまで開示請求の手続を経なければ開示されなかった事業所ごとの排出量情報について開示請求の手続なしで公表される仕組みとするものです。

 「適応」については、「気候変動適応法」が2018(平成30)年6月に公布され、同年12月から施行されています。
 気候変動適応法は、第5条で「事業者の努力」を規定しています。
 「事業者は、自らの事業活動を円滑に実施するため、その事業活動の内容に即した気候変動適応に努めるとともに、国及び地方公共団体の気候変動適応に関する施策に協力するよう努めるものとする。」
 この具体的内容として、環境省サイトの逐条解説では、努力義務として「気候変動影響によって自らの事業が途絶えることのないようにサプライチェーンの多重化や洪水時の浸水対策など、業務を円滑化させるためのリスクマネジメントの取組」を挙げ、また、努力義務ではないとしながら「防災・減災に資する技術開発、製品・サービスの販売や、高温耐性品種の開発や販売など、その事業分野に応じた適応ビジネスの実施」を挙げています。つまりBCPの取組と適応ビジネスの2通りで気候変動適応への貢献方法を挙げています。私はこの他にも、環境社員教育も立派な事業者の責務だと考えます。
 民間企業にとってCO2の排出削減は判りやすいですが、気候変動への「適応」と言われても、何をどうすべきなのか判りにくいと思います。
 そこで、「気候変動適応法」では、第7条で政府は気候変動適応計画」を策定し、第10条で環境大臣がおおむね5年ごとに気候変動影響の評価をすることになっています。これらには気候変動に関する情報や知見、日本の現状分析や資料が掲載されています。
 気候変動適応計画 (概要)http://www.env.go.jp/earth/gaiyou_r.pdf
 気候変動影響評価報告書  パンフレット
              http://www.env.go.jp/earth/arcci_pamphlet.pdf      
        ※A3両面印刷で折り畳む仕様のためPDFで上下反転しています。
 第11条には「研究所による気候変動適応の推進に関する業務」が規定され、国立環境研究所が気候変動影響及び気候変動適応に関する科学的情報基盤の中核を担うとされ、気候変動に関する様々な情報や知見のプラットフォームサイトが開設されています。
          気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT) (nies.go.jp)
 環境省の気候変動適応法のサイトには上記のほか民間企業向けの気候変動適応ガイドも掲載されています。
          環境省_気候変動への適応 (env.go.jp)
   民間企業の気候変動適応ガイドhttp://www.env.go.jp/earth/minkann2.pdf
        (参考資料編)http://www.env.go.jp/earth/sankoushiryou.pdf

 今年10月ころまでに2030エネルギーミックスが策定されれば、日本経済も脱炭素化へ向けて大きく舵を切ることになります。その動きはもう始まっています。
 中小企業にとっても、気候変動の緩和と適応は、リスクマネジメントでもあり、ビジネスチャンスでもあります。