行政手続法を知ろう
行政手続法は、行政運営の公正と透明性を確保するために、許認可などの行政処分や行政指導、届出、などについて、原則的な手続きを定める法律です。平成5年にできた法律で、意外にも新しい法律です。日本社会は長らく「お上」意識が根強く、泣く子と地頭には勝てぬ、のとおり、公僕とはいえ、行政のいうことには、ご無理ごもっとも、と従うしかありませんでしたね。
でも、この法律は、そんな封建的官民関係から、日本社会もようやく抜け出すことを決意した象徴、ともいえます。
キイワードは、「公正」と「透明性」です。
透明性とは、行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること、と定義されています。平たく言えば、誰から見ても正しく(公正)、外から見て分かりやすい(透明)、ということです。これらが、この法律が行政運営に求める基本理念です。
そして、その目的は、「国民の権利利益の保護」です。
では、その行政手続法の中身を見ていきましょう。
行政手続法が、先ず、取り上げているのが「行政処分」手続きです。行政処分とは「公権力の行使に当たる行為」、つまり、国民の権利利益に直接、影響を与える行為です。
最高裁は、行政処分の定義について、「行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、または、その範囲を確定することが法律上認められているものをいう」(下線は筆者、ここがポイントです)と説明しています。
これは昭和39年10月29日第1小法廷判決で示されたものですが、近年の最高裁判例は、この解釈に拠りつつも、「行政処分」と認める範囲を、その前後の手続きの流れも含めて実質的に判断し、拡げてきています。
行政手続法では「行政処分」手続きについて、申請に対する処分、と、不利益処分、について、規定しています。
申請に対する処分
「申請」とは、法令に基づいて、行政庁に許可、認可、免許など何らかの利益付与を求める行為をいいます。例えば、営業許可の申請、などです。申請に対して行政庁は、諾否の応答をしなければなりません。
諾否(許可などをするか否か)を判断する審査基準と標準処理期間は、予め、具体的に定められ、公にされていなければなりません。
そして、申請が到達したときは遅滞なく審査を開始し、申請を拒否する場合(不許可など)には、その理由を示さなければなりません。
不利益処分
「不利益処分」とは、行政庁が、法令に基づき、特定の人を名宛人として、直接に、義務を課し、またはその権利を制限する処分、と定義されています。例えば、営業許可の取消しや営業停止、などです。
処分基準も、予め、具体的に定められ、公にされていなければなりません。
不利益処分をする場合には、名宛人(処分を受ける人、例えば、その営業許可を取り消されたり、停止されたりする人)に意見陳述をさせる手続が必要とされています。聴聞という手続きですが、これには裁判に準じた、対審を基本とする詳しい規定がおかれ、名宛人が行政に不利益処分の原因事実に関する資料の閲覧を請求することもできます。
これら手続きを経て不利益処分をする場合にも、その理由が示されなければなりません。
行政指導
行政手続法は、行政指導に対してこそ、もっとも有意義だったと言えるかもしれません。
融通無碍に使えるところが行政指導の良い点でもありますが、国民側から見れば、ブラックボックスになりがちです。
一般原則として、行政裁量権限の逸脱や濫用の禁止、指導に従わないことに対する不利益取扱い(差別など)の禁止、が明記されました。行政指導の方式としても、指導の趣旨・内容や責任者、根拠法令とその該当性、を明示すること、求めがあればこれらを書面で交付すること、も規定されました。同じ行政指導を複数者にする場合には、指針を定めて公表したうえで行うことも必要です。
取下げや変更するようにとの指導に従わない申請人に対して、執拗に指導を継続したり、許認可権限をチラつかせて威嚇的指導をすること、も禁止されました。
行政指導中止の申出権も追加されています。
処分等の求め
誰でも、違法事実があるのに行政が是正処分や指導を怠っていると認めときは、その処分や指導を行う行政庁に処分や指導を行うよう、申出ができるようになりました。
届出
提出先の行政庁の事務所に適式な届出書を到達させれば、届出が為されたものと認められます。
意見公募手続
いわゆるパブリックコメントに関する手続きです。
意見提出期間は原則30日以上、意見を十分考慮すべき義務、提出された意見やそれらを考慮した結果や理由を公示すべきことが規定されています。
出来てからすでに30年が経つ行政手続法ですが、まだまだ実際の現場では徹底されていない場面もあると思います。
一般にも未だあまり知られている法律とはいえません。
行政の対応に「???」と思われたときには、この法律のことを思い出してみてください。