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脱炭素時代のライフスタイル『ドローダウン』 本のおススメ 続き

 前回に引き続き、
『ドローダウン地球温暖化を逆転させる100の方法』
ポール・ホーケン編著 江守正多監訳 東出顕子訳 2020年12月 山と渓谷社
 のお話です。

 1990年に弁護士登録して弁護士会の公害対策環境保全委員会で環境問題の勉強を始めた頃から、環境問題は究極的にライフスタイルからの問題、といわれていました。でも、あの頃はまだ、バブルの余韻も残っていて、高級車シーマや高級ブランド、グルメ雑誌に美食会、高級リゾート、もまだまだ健在でしたね。「ベジタリアン」なんて変人扱いの雰囲気でした。日本経済とともに成長した昭和世代にとって、環境配慮型ライフスタイルなんて、子供時代の貧しさを思い出させるゾッとしないもの、という人が多かったように思います。

 本書『ドローダウン』で紹介されている解決策は、5つの分野にわたっています。各分野とそれぞれの二酸化炭素削減量は、次のとおりです。ギガトンは水量にして10億トンです(詳しくは前回ブログで)。

「都市と建物」  54.49ギガトン
「エネルギー」 246.13ギガトン
「資材」    111.78ギガトン
「食」     321.93ギガトン
「土地利用」  149.6 ギガトン
「輸送」     45.78ギガトン
「女性と女児」 121.26ギガトン

どうですか?
 「食」(内容としては農業と食生活)の分野には、「エネルギー」分野を75ギガトン(2016年の世界の総排出量で約2年分!)も上回る削減可能性があるんですね。農業のやり方は、農家の方々に頑張ってもらうしかないですが、食生活なら都市生活者、特に、いわゆる先進国の都市生活者(私たち)にも出来そうです。

食分野の解決策の間に「わざわざこんなことして意味ある?」というエッセイが挟まれています。ひとことで言うと、個人が温暖化対策として、通勤をマイカーから自転車に変え、生ごみは堆肥化し、乾燥機は使わずに洗濯物は竿に干し、などなど、苦労して励んでみても、結局「焼け石に水」じゃないの?、という問題です。
 片や、電気つけっぱなし、停車中もアイドリング、などなど、平気でやってる人もまだたくさんいるじゃない?

 他の人はともかく・・
 このエッセイの著者、マイケル・ポーランがすすめる行動は、「何か自分が食べる物を―ほんの少しでも―育てること」。これが個人にできる最も効果的な行動のひとつなのだそうです。その理由は、この行動によって人々が依存と分断の意識を減らすことができるから。つまり、安い化石燃料に依存し、生きる糧を生み出す行動から分断されて消費するだけのチープエネルギー頼みの思考を変えることができるから、だそうです。

 そうです!私も今、一番、これがやりたい!しかし、言い訳したくないけど、かなり難しい・・です。
 豆苗の再生?なら「ベランダー」でも簡単だけど、そんなに豆苗ばっかりってわけにもいかない。ハーブやミニトマトくらいなら挑戦できそうだけど、ちゃんと自分が食べられる作物をつくるのは難しそう。

写真は、2015年に株式会社イケダコーポレーションさんの「エコバウツアー」で視察したベルン(スイス)郊外のオーバーフェルドの最先端エコアパートです。最上階が屋上農園付きペントハウスになっていて、アパートの周りも住民なら自由に使える農園になっていました。こういうエコ集合住宅が日本にもたくさん出来れば良いのに・・とつくづく思います。

 本書「ドローダウン」で上位にランキングされた「食」分野の解決策は、4位「植物性食品を中心にした食生活」、3位「食料廃棄の削減」、です。これなら日本の都市の集合住宅に住む、私のような人にも明日から出来そうです。少し、見てみましょうね。

4位「植物性食品を中心にした食生活」
二酸化炭素削減量は、66.11ギガトン

「牧場」というと、憧れの響きがありますよね。でも、家畜の飼育は世界中で毎年排出される温室効果ガスの15%近くを占めるのだそうです。そのうち牛のゲップは最大の犯人?で、ゲップが強力な温室効果をもつメタンガス(本書では二酸化炭素の34倍としています)だからです。
 育ち盛りクンがいれば、お肉も食べさせたいですよね。でも、人間は、植物性たんぱく質が豊富であれば、栄養のために動物性たんぱく質を摂る必要は無いんだそうです。
 2050年までに低所得国は経済成長につれて肉の消費が増える、という想定のもと、世界人口の50%が食事を健康水準の2500キロカロリー/日に制限して肉の消費を削減すれば、この、食生活の変化だけで少なくとも26.7ギガトンの排出が回避できるとしています。上記の削減量は、これに牧場化などのための森林伐採の回避分が含められています。

3位「食料廃棄の削減」
二酸化炭素削減量は、70.53ギガトン

 「フードロス」は、最近、日本でもよく話題にされるようになりました。
 本書によると、「育てるか加工した食料の3分の1は農場や工場から食卓へたどりつきません。その数字にはびっくりします。全世界で8億人近くが飢餓状態で生活している、という事実と対比すればなおさらです。」
 「私たちが無駄にする食料は毎年4.4ギガトンの二酸化炭素を大気中に放出しているのと同等の排出源である―人間活動に由来する温室効果ガス排出量合計の約8%に当たります。国別ランキングにすれば、食料廃棄は世界第3位の温室効果ガス排出国になり、それをしのぐのは、米国と中国だけです。」
 フードロスは、低所得国ではサプライチェーンのインフラに起因する割合が高いですが、高所得国では、消費者レベルでの廃棄が最大35%にもなるそうです。
 2050年までに植物性食品を中心にした食事の採用も考慮したうえで、食料廃棄が50%削減されれば、26.2ギガトンの二酸化炭素(相当)排出が回避できるとしています。上記の削減量はこれに、農地拡大のための森林伐採の回避などを加えたものです。

 ライフスタイル問題を
「自分たちは豊富で安い化石燃料で散々贅沢してきたのに、途上国や孫(将来世代)には肉も食べるな、省エネしろ、ってか?」
 なんて考えてしまうと、間違えてしまいそうです。
 これからどうするか、人類みんなで考えて協力しないと、この気候危機は回避できません。
 特に、先進国と言われる国に住む私たちが、さらに一歩踏み出して、考え、行動しなければなりません。
 「ビーガン(完全採食)はもちろん、ベジタリアン(チーズ、牛乳、卵は食べる)も無理そう」という私でも、「リデュ―スタリアン」(肉食減量主義)なら、明日から出来そうです。

 「わざわざこんなことして意味ある?」と無力感に陥らず、学んで自信を持って、個人の真面目な努力を積み重ねたいと思います。