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脱炭素時代のライフスタイル『ドローダウン』 本のおススメ

 おススメしたい本は、
『ドローダウン地球温暖化を逆転させる100の方法』
  ポール・ホーケン編著 江守正多監訳 東出顕子訳 
  2020年12月 山と渓谷社

 昨年10月末のCOP26の影響でしょうか? テレビでも新聞でも、脱炭素や再エネ、気候危機に関する報道や番組が増えましたよね。
 2000年代に、映画「デイ・アフター・トゥモロー」やアル・ゴアの「不都合な真実」で警告をビジュアルに見せられても、頭のどこかで「まさか、北極の氷が融けるなんて」とか思っていましたよね。
 あれから20年近く経った今、巨大化する台風、大寒波、大洪水、・・、
 あの『警告』が実現しつつあることを実感せざるを得ない状況になっています。

 でも、どうすれば良いのか?
 環境問題を考えるときによく言われるキイワードが「トレードオフ」です。「あちら立てれば、こちらが立たず」ってやつです。環境に良かれと思ってすることも、実は別のところで良くない影響が生じてしまう、というのが、環境問題には良くあります。
 さらに、環境問題からもっと拡げてSDGsの視野に立って見れば、環境問題としては良くても、社会的あるいは経済的には良くない、ということもあります。
 実は、環境問題の難しさは、このトレードオフを正確にデータ的に把握して、比較衡量する、というところに在ります。思い付きで何でもやってみりゃぁいい、というものではありません。

 2020年代の人類(ホモサピエンス)全体として、各国の政策決定者が「どうすれば良いのか」は、IPCCが第6次報告書などで客観的状況と予測を明確に示してくれており、最低限のことがCOP26で合意されました。

 では、私たちは「どうすれば良いのか」
 それが実は、よく判らないなぁ、とモヤモヤしていました。

 このモヤモヤに正面から取り組んでくれたのが、この「ドローダウン」プロジェクトです。

 アメリカの環境保護活動家であるポール・ホーケン氏の呼びかけに集まった専門家は22か国から70人。ドローダウンとは、大気の用語から来ており、温室効果ガスがピークに達し、年々減少し始める時点を指すそうです。このプロジェクトの目標は、100の確実な解決策を特定、評価、モデル化して、そのドローダウンを目指して30年でどれくらいのことを達成できそうかはっきりさせること、とされています。
 ご紹介するのは、書籍(私が読んだのは電子ですが、紙もあります)ですが、ウェブサイトも開設されています。

プロジェクトのドローダウン (drawdown.org)

 書籍は、一つの解決策に見開き2頁から4頁程度が充てられていて、テーマに沿った美しいカラー写真が組み入れられています。辞書や図鑑のように読むこともでき、とても楽しく読めます。

 解決策総合ランキング、知りたいですよね?
 解決策トップテンを並べてみますね。
                    *は私の勝手なコメントです。
第10位 屋上ソーラー  *私も賛成です
第9位 シルボパスチャー(林間放牧) 
     *日本でも似たものを見たことあります、良いですよ、これ
第8位 ソーラーファーム  *日本ではこれには異論があるかもしれませんね
第7位 家族計画  *意外でしょ? 理由は読んでみてくださいね
第6位 女児の教育機会  *これも第7位とほぼ同じ理由です
第5位 熱帯林  
     *アマゾン(通販でなくてホンモノのほう)の危機が叫ばれていますよね
第4位 植物性食品を中心にした食生活
     *地球だけでなく私の身体と健康にもやさしそう
第3位 食料廃棄の削減  *フードロス問題の重要性を再認識しました
第2位 風力発電(陸上)  *洋上よりも陸上なんですね
第1位 冷媒  *これに「何で??」という方、次で簡単にご紹介しますね

 「冷媒」とは、冷蔵庫やエアコンに使われている化学物質で、オゾン層を破壊することで問題になったフロンガス(クロロフルオロカーボン(CFC)やハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)など)がそれです。御存知のように「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(1987年)によって、これらは段階的削減が決められました。
 しかし、オゾン層に有害影響を与えないとして開発された「代替フロン」は、他方で、地球大気に対する温室効果が二酸化炭素の1000倍から9000倍もあることが判明しました。2016年、モントリオール議定書が改正(キガリ改正)され、代替フロンも段階的削減の対象に加えられました。
 日本も「オゾン層保護法」「フロン排出規制法」で代替フロンを含むフロンガスをクローズドに管理すべき規制をしています。ただ、実際の現場では、不適正廃棄による大気中への放出の問題が払拭できないのだそうです。

 本書『ドローダウン』では、今後30年間でクローズド管理と適正廃棄を徹底することで、放出してしまったかもしれない冷媒の87%を封じ込められれば、89.7ギガトンの二酸化炭素に相当する排出を回避できる可能性があるとして、ランキング順1位に位置付けました。
 なお、1ギガトンとは、水量にして10億トン、オリンピックサイズのプール40万個分です。ちなみに、徳山ダム(揖斐川上流の我が国最大級のダム)の総貯水容量は6億6000万トンです。
 2016年に世界中で排出された二酸化炭素の量は36ギガトンだそうで、冷媒フロンガスの管理による削減量はその2年半分になる、ということです。

 フロンガス規制は、人類(ホモサピエンス)が科学の英知を結集して地球の危機を回避できた貴重な先例で、地球温暖化対策のプロローグとも言えます。これがランキング1位になったのも、想定削減量やその効果が、他の解決策に比べれば測りやすかった、というのもあるように思います。
 ということは、他の解決策も、人類にとって未だ測定不可能なだけで、大きな可能性を秘めていると期待できます。
 2030年まで、あと残り丸8年しかありませんが、世界中の科学者と勇気ある人々を信じて、ちゃんと勉強しながら、自分ができること、すべきこと、をやり続けたいと思います。