第六次環境基本計画の中間取りまとめパブコメ中
今月(2023年10月)3日、環境省から第六次環境基本計画策定に向けた中間取りまとめが公表され、11月2日まで意見募集が受付されています。
第六次環境基本計画策定に向けた中間取りまとめの公表及び意見の募集について | 報道発表資料 | 環境省 (env.go.jp)
「環境基本計画」とは、環境基本法15条にもとづき、環境保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために環境保全に関する基本的な計画として定められるもので、環境大臣が中央環境審議会の意見を聞いて案を作成し、閣議決定を得て、政府の計画となります。
環境基本法は、1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットを受け、日本政府がそれまでの環境政策の枠組みを再構築するための新たな基本法として、1993年11月に成立させました。
環境基本計画は、日本政府の環境保全施策に関する最も基本的な計画というわけです。
1994年12月に第一次、2000年12月に第二次(副題「環境の世紀への道しるべ」)、2006年4月に第三次(副題「環境から拓く新たなゆたかさへの道」)、2012年4月に第四次、2018年4月に第五次(「地域循環共生圏」を提唱)、が閣議決定されています。
第六次環境基本計画は、今年5月に環境大臣から中央環境審議会に諮問が為され、現在、審議中です。今回の「中間取りまとめ」には、第六次環境基本計画の方向性や盛り込むべき内容の概要が示されており、この段階で広く国民から意見を募集しようというものです。
今回公表された「中間取りまとめ」は、「第1部 環境・経済・社会の状況と課題認識」と「第2部 環境政策の具体的な展開」です。
第1部は、主に「第1章 環境・経済・社会の現状と課題認識」と「第2章 持続可能な社会に向けた今後の環境政策の展開の基本的な考え方」 です。
「現状と課題認識」では、第六次環境基本計画の射程がおよそ2030年までであるところ、この期間が人類と現代文明にとって決定的に重要であることが強調されています。そうですよね、2030年は「カーボンハーフ(温暖化ガス排出量半減)」と「ネイチャーポジティブ(生物多様性損失を止めて反転)」の目標年です。
他方、第三次環境基本計画で「環境先進国」を目指すとしたのに反し、我が国の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合は約2割でG7各国では米国と並んで最も低い水準であることや、現在の再生可能エネルギー等の環境関連機材を海外に多く依存していること、炭素生産性や資源生産性は、世界各国が改善を続ける中で我が国は低迷していること、が指摘されています。
こうした現状と課題の認識を受けて、第六次環境基本計画の方向性を次のように示しています。
「産業革命以降、近代文明を支えてきた化石燃料等の地下資源への過度の依存から、地上資源主体の、無形の価値を重視した循環・高付加価値型の経済社会システムへの転換は、GDPだけで捉えられない部分も含めた人々の経済厚生の向上、経済の長期停滞からの脱却や安全保障の確保などの課題の解決を含めた環境・経済・社会の統合的向上のために共通した基盤」
「そうした観点からは「環境の主流化」は必然的な流れと言える。これは、「成長の限界」から「環境収容力を守り、環境の質を上げることによる経済社会の成長・発展」への転換である。今や環境と経済は対立、矛盾させる関係ではなく、基盤である環境とその上で成立する経済は、いわば「同期」「共進化」していくべきものとなった。」
「以上のような現状と課題認識に基づけば、環境・経済・社会の統合的向上のためにも、「勝負の2030年」と言える。第六次環境基本計画では、環境を軸として、環境・経済・社会の統合的向上の「高度化」を図り、現在及び将来の国民が、明日に希望を持って高い生活の質を享受できる持続可能な社会の実現を目指し、今後の環境政 策の展開の方向性を明らかにする。」
この方向性を受けた第2章「環境政策の展開の基本的な考え方」では、次のようなキイワードが示されます。
○現在及び将来の国民一人ひとりの生活の質、幸福度、Well-being、経済厚生の向上、「新たな成長」(「Well-being/高い生活の質)
○地上資源を主体にし、資源循環を進め、環境負荷の総量を減らす「循環を基調とした経済社会システム」
○地球の健康と人間の健康を一体的に考える「プラネタリー・ヘルス」の考え方、人は環境や生態系の一部であって「共生」すべき。
○循環共生型の社会(「環境・生命文明社会」))
そして、第2部の「環境政策の具体的な展開」では、6つの重点戦略(経済、国土、地域、暮らし、技術、国際)が示されます。
①「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築
地下資源を大量消費する旧来の経済システムから、地上資源を循環させることで経済成長と資源消費量をデカップリング(切り離し)し、資源生産性や炭素生産性を高める。これはバリューチェーン全体が射程なので、中小企業も当事者として対象になります。
➁自然資本を軸とした国土のストックとしての価値の向上
自然資本は、森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本(ストック)のことです。「生態系を活用した防災・減災」、地域と共生する再生可能エネルギー導入、良好な住宅の蓄積、などは地域の中小企業でも貢献できる分野と思います。
③環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり
「特に中小・中堅企業(SMEs)が気候変動や環境の悪化へのレジリエンスを高めることを目的として、温室効果ガスやその他の環境影響に関する測定、開示及びカバナンスの構築を実現する。」との記載がありますが、地域づくりに対する中小企業の貢献可能性についても評価してほしいなと思いました。
④「Well-being/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現
中小企業への言及はありませんが、「持続可能で健康的な食生活やサステナブルファッションなど持続可能な消費に基づくライフスタイル、Well-beingの在り方を示すことが重要」には、大いに中小企業の貢献、活躍の場がありそうです。
⑤「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装
「我が国は、研究開発や特許等の革新的資産投資は高いが、マーケティングやブランド形成等の国民の本質的なニーズを把握した上での経済的競争能力投資が低く、イノベーション実現割合は低い。一方で、欧州諸国は経済的競争能力投資が高く、イノベーションの実現割合も高くなっている。」という課題認識が示されていますが、「マーケティングやブランド形成等の国民の本質的なニーズを把握した上での経済的競争能力投資」なら中小企業でも大企業と互角に挑戦できますよね。
⑥環境を軸とした国益と人類の福祉に貢献する戦略的な外交・国際協調の推進
外交や国際協調というと大きな話ですが、次の指摘は有用です。
「エネルギー危機、食料危機も相まって、世界が未曾有の複合的な危機に直面し、安全保障やビジネスにおいて環境が主流化する中、国境のない地球規模の環境問題においては、国際社会が誓約した2030年の目標達成に向けた今、先進国・途上国の区分を超えて、分断ではなく、共に取り組む「協働」の重要性がかつてなく高まっている」
「気候変動、生物多様性の損失、汚染という3つの世界的危機への対応に当たって、脱炭素、ネイチャーポジティブ、循環経済等を統合的に実現する経済社会システムの構築が世界的に求められている。」
これが我が国全体(外交や経済も含めた)の「基本計画」だったら良いのになと思います。
あえて言えば、6つの重点戦略、特に、地域や暮らし、国内経済や国土保全における中小企業の役割への期待や評価、パートナーシップ、はもっと書いてくれてもいいんじゃない?と思います。
書いてくれてなくても、中小企業にとっては、その目指すべき方向性、つまり、今から2030年までの世界と日本の経済社会の課題(リスクとチャンス)が、「環境」(脱炭素、生物多様性の保全・回復、循環型経済の構築と汚染除去)に在ること、は明確に示されています。
期限が迫っていますが、意見を出されてみてはいかがでしょうか?