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民活ネイチャーポジティブ(自然再興)30by30法制化

 1992年にリオデジャネイロ(ブラジル)で開催された国連環境開発会議(地球サミット)で、地球温暖化とともに、人類の危機となりうる地球環境問題として取り上げられたのが、生物多様性でした。
 現代は、地球46億年の歴史上6度目の大量絶滅の時代といわれています。しかも、その犯人は私たちホモサピエンスだといわれています。そう、恐竜時代を終わらせた隕石衝突と同じくらいの衝撃を、我々人類は地球の他の生き物に与えているわけです。
 ご存じのとおり、地球温暖化に対しては、脱炭素の目標が、2030年カーボンハーフ、2050年カーボンニュートラル、と定量的に明確にされました。他方、生物多様性はといえば、温暖化ガス影響の定量的評価に比べ、生物多様性は定量的評価が難しいため、遅れていましたが、ようやく、目標や評価の指標が固まってきています。

 昨年2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議において、新たな世界目標として「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年ネイチャーポジティブ(自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させる:自然再興)、2050年「自然と共生する世界」ビジョン、が示されました。

 自然に恵まれているはずの我が日本ですが、やはり、過去50年で我が国でも生物多様性も損失が続いているそうです。

 日本政府は「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を受け、今年2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定しました。生物多様性国家戦略は、生物多様性条約第6条及び生物多様性基本法第11条に基づく生物多様性の保全と持続可能な利用に関する政府の基本的な計画です。

 「生物多様性国家戦略2023-2030」では、2030年ネイチャーポジティブ(自然再興)実現を目指し、行動計画として、基本戦略1「生態系の健全性の回復」の行動目標1-1「陸域及び海域の30%以上を保護地域及びOECMにより保全するとともに、それら地域の管理の有効性を強化する」としています。
 OECMとはother effective area-based conservation measuresの略で、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域をいいます。
 「昆明・モントリオール生物多様性枠組」のターゲット3である「30by30目標」(2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する目標:サーティバイサーティ)に添うもので、すでに2022年4月に策定されていた「30by30ロードマップ」が「生物多様性国家戦略2023-2030」の附属文書と位置付けられました。

 タイトルの「民活ネイチャーポジティブ(自然再興)30by30法制」は、私が勝手にネーミングしたものです。今回パブコメ中の正式名称は、「自然再興の実現に向けた民間等の活動促進につき、今後講ずべき必要な措置について(答申案)」に関する意見募集、です。パブコメの説明だけ読んでも経緯が判りにくいので、判りやすくネーミングしてみました。

 政府はすでに30by30目標実現のための施策として、2023年度から「自然共生サイト」の認定を行いました。「2023年中に100か所以上を認定」という目標を超え、前期分だけでも合計122か所が10月25日に認定されました。

 今回の答申案は、「自然共生サイト」認定制度を拡充し、とくに民間の活力に期待して、30by30目標を実現するための法制化を意図しているようです。

 「民間等の活動促進につき今後講ずべき必要な措置」として、5つの内容が提言されています。
 ポイントは「民間等の活動促進」という目的です。この間の民間企業の意識変化や「自然共生サイト」の認定実績から、民間活力に期待しようというのが動機のようです。

 答申案の内容を、簡単にご紹介しますね。

(1)場所と紐づいた活動計画の国による認定
 国による認定制度は、統一的な観点による判定、国際的な信頼性の確保、から必須としています。
 OECM(上記参照)国際データベースへの登録も視野に入っています。

(2)活動の対象範囲、計画の策定主体及び活動の内容のあるべき方向性
 対象範囲には、陸域のみならず沿岸域も含まれます。「自然共生サイト」認定で沿岸域が少なかったようです。
 また、耕作放棄などの管理放棄地や開発跡地など現状で生物多様性が豊かでない場所における生態系の回復や創出も対象にすべきとしているのは注目です。
 計画策定主体には、民間主体も認められます。既存の生物多様性地域連携促進法が、市町村による計画策定と連携を要することの反省のようです。もちろん、民間が市町村と連携する計画も認められます。
 活動内容に対しては、規制や負担を課すことなく、他方でグリーンウォッシュを許さない基準が必要としています。

(3)活動の継続及び質の担保への対応策
 制度的措置として、活動状況の確認、認定の取り消し制度、土地所有者等に対するメリット措置、が提案されています。
 行政機関や専門家による助言・伴走支援などの中間支援、モニタリング、活動内容の見える化、地方公共団体との連携、国内外への普及啓発・理解増進、が提言されています。

(4)関係する分野・施策との連携強化
 生物多様性関連施策との連携として規制の特例や計画のみなし認定、気候変動・循環経済・Eco-DRR(生態系を活用した防災)などとの連携、生物多様性に関連する国土利用の計画及び施策との連携強化、が提言されています。

(5)活動を促進するための方策の推進
 認定の間口は広くしたうえで、活動評価については、定量的評価やTNFDでの活用が可能な程度の客観性を求めています。
 人的・資金的支援についても、TNFDで活用できるような支援証明書、や、専門家等とのマッチング、を提言しています。
 手続きについては、一括認定など事務の効率化や事前調整などの体制整備を求めています。

 パブコメ募集は、来年1月6日(土)までです。詳しくは以下のサイトから。
「自然再興の実現に向けた民間等の活動促進につき今後講ずべき必要な措置について(答申案)」に関する意見募集(パブリックコメント)について | 報道発表資料 | 環境省 (env.go.jp)

 パブコメを受けてその後は、1月23日の第3回小委員会でとりまとめ、その後、正式に答申とされる予定だそうです。

 答申案でも触れていますが、気候変動分野におけるTCFDの枠組みに続き、生物多様性分野を対象とする TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務開示タスクフォース)の枠組みが2023年9月18日に公開されています。
 これもまた、TCFD同様、東証プライムのガバナンスコードに組み込まれ、大企業に事実上義務化され、スコープ3を通じてサプライチェーン、バリューチェーンにも及んできます。数年以内にはこれが中小企業の経営課題となってやってくるのは必至です。
 これもまた、ピンチと捉えてやらされるのでなく、今、地方の地域環境は地元の中小企業が担っているのが現状ですから、自社を生物多様性の視点から見直してみましょう。きっと、生物多様性の観点でも地域貢献が見つかると思いますよ。