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民事裁判IT化

 今、日本の民事裁判もIT化が進められているのをご存知でしょうか?
 すでに2022(令和4)年5月、民事訴訟法が改正され、公布から4年以内に全面施行されることが決まっています。来年末から再来年はじめには、全面施行される見通しです。
 今月(2024(令和6)年3月)1日から、全面施行に向けた2段階め、「口頭弁論」のWEB会議化、が施行されました。

 民事裁判IT化の流れを少し遡って見てみましょう。

 1998(平成10)年、現行の(上記改正前)民事訴訟法が施行され、それまでアナログ一色だった民事裁判の世界に、電話会議システムやテレビ会議システムが導入されました。これで、かなり便利になると思ったのですが、私の経験では、機器の性能や使い勝手がイマイチなのと、裁判官の顔色見ないと不安、とか、足を運ぶことこそ裁判官への敬意、みたいな雰囲気があって、例外的にしか使われませんでした。

 その後、日本は「失われた○十年」で、IT化で世界に後れを取ることになるのですが、裁判の世界でも、日本はIT化で後れを取ってしまいました。
 2017(平成29)年、政府は「未来投資戦略2017」(6月9日閣議決定)において「迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため、諸外国の状況も踏まえ、裁判における手続保障や情報セキュリティ面を含む総合的な観点から、関係機関等の協力を得て利用者目線で裁判に係る手続等の IT化を推進する方策について速やかに検討し、本年度中に結論を得る」(112頁、デジタル時代の公共サービスの提供)と打ち出し、同年10月に「裁判手続等のIT化検討会」が設置され、2018(平成30)年3月30日に「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ -「3つのe」の実現に向けて-」が公表されました。
 この取りまとめには、世界銀行の❝Doing Business❞2017年版で「裁判手続の自動化(IT化)」に関する項目について我が国に厳しい評価が示され、我が国のビジネス環境や国際競争力の観点から見た場合、利用者目線に立った裁判手続のIT化を進める必要がある、との認識が書かれています。訴訟とITの大国アメリカは言うに及ばず、シンガポールや韓国でも、IT化した裁判手続等の運用が広く普及・定着している、とも書かれています。

「3つのe」とは
 取りまとめのサブタイトルにある「3つのe」は、裁判手続等のIT化の主な内容です。
 その3つは、次のとおり。
e提出(e-Filing)
 ・主張・証拠をオンライン提出に一本化
 ・手数料の電子納付・電子決済
 ・訴訟記録を電子記録に一本化
e事件管理(e-Case Management)
 ・主張・証拠への随時オンラインアクセス
 ・裁判期日をオンラインで調整
 ・本人・代理人が期日の進捗・進行計画を確認
e法定(e-Court)
 ・ウェブ会議・テレビ会議の導入・拡大
 ・口頭弁論期日(第1回期日等)の見直し
 ・争点整理段階におけるITツールの活用

IT化のプロセス
 取りまとめでは、全面IT化を実現段階に応じて3つのフェーズに分け、順次、新たな運用を開始していくアプローチを示し、現状これに沿って進められています。
 その「利用者目線から望まれる裁判IT化のプロセスのイメージ」は、次のとおり。 
   フェーズ1 現行(改正前)法の下でのウェブ会議・テレビ会議の運用
                       *これはすでに完了しています。
   フェーズ2 新法(改正法)に基づく弁論・争点整理等の運用 
                       *現在はこれの第2段階に入りました。
   フェーズ3 オンラインでの申立て等の運用   
                       *来年末か再来年はじめから始まります。

 フェーズ1のWEB会議は、マイクロソフト社Teamsを使って行われています。
 2020(令和2)年2月から東京地方裁判所、大阪地方裁判所をはじめとする8つの地方裁判所本庁で運用が開始され、現在、全国の地方裁判所の本庁と支部に普及しています。
 具体的には、最高裁判所がマイクロソフトのアカウントをTeamsのテナントを開設し、事件ごとにチームを作って、担当裁判所の裁判官と書記官がユーザーメンバー、当事者(原告、被告)代理人弁護士がゲスト、として、ファイル機能で裁判資料(準備書面や書面証拠)の共有、チャット機能で諸連絡、を行っています。
 他方、Teamsではアップロードしたファイルの改変が自由(本来は共同編集機能だもんね)なこともあって、正式な裁判資料の提出には、最高裁判所が自ら「mints(ミンツ)」(正式名称「民事裁判書類電子提出システム」の略だそうで、ミンツのようにさわやかなイメージをという願いも込められているそうです)を開発、運用、改善しています。
 私もこの間に数件を経験しましたが、大阪地方裁判所の事件で裁判所まで歩いて5分でも、土砂降りの日にはWEB会議はありがたかったです。
 最高裁作成のマニュアルには、絵文字使用禁止、とか書いてありましたが、若い裁判官にちょっとキツイこと言わなきゃいけないときに使っちゃいました。効果はあったみたいです。
 お堅い日本の裁判所が、チャットの連絡に「いいね」を推奨するなんて、「利用者目線」からも良いことだと思います。

 今月(2024年3月)から施行されたのは、このWEB会議を、今まではインフォーマルな準備手続に限られていたところ、フォーマルな「口頭弁論」でも使えるようにしたことです。
 「口頭弁論」とは、裁判所が当事者の言い分を聞いたり提出される証拠を受け取ったりするための正式な期日で、憲法82条(裁判の公開)に基づき、双方同席のうえ裁判官に直接に口頭で訴えるという方式に拠ることが求められています。そう、テレビドラマで見る、傍聴席のある、あの法廷でのやり取りのイメージです。
 今までは、民事裁判IT化といっても、裁判所と代理人弁護士の間の手続きの合理化だったので、世間からは見えにくかったかもしれません。
 これからは、依頼者の方のみならず世間一般の方々にもその実像が見えてくるようになると思います。

 来年末から再来年はじめには、オンライン申立て、や、オンライン証人尋問、も始まります。まだまだ課題は多いですが、何だかワクワクしますね。
 分厚い紙の束を抱えて、ときには長い距離を移動する、のが当たり前だったこの業界も、いよいよ新しい時代に入りました。事務所のレイアウトから仕事の仕方まで、ガラリと変わると思います。

 まだまだ元気で頑張りますね!