リニア中央新幹線と南海トラフ巨大地震
今月16日、高木仁三郎市民科学基金「市民科学」公開フォーラムで、石橋克彦先生(神戸大学名誉教授、地震学)の「リニア中央新幹線に対する地震学からの警告」を聴きました。
石橋克彦先生といえば、阪神淡路大震災の1997年から「原発震災」の可能性を指摘され、2007年10月の中部電力浜岡原発の耐震安全性を認める地裁判決に対して、「判決の間違いは自然が証明するだろうが、そのときは私たちが大変な目に遭っている恐れが強い」とコメントされたことでも有名です。
石橋先生によれば、「リニアは、哲学なき科学技術が社会に災厄をもたらす事例の一つ、原子力と似る」のだそうです。
国鉄(現在のJR)によるリニアモーターカーの研究が始まったのは1962年。私と同じ世代の方々には、子どもの頃、あこがれの未来の乗り物でしたよね。
それが中央新幹線構想と結びつき、現在進行中の計画となりました。品川と名古屋の間を、現在の中央本線より真っ直ぐなルートで、約40分で結びます。最高時速は500キロ超、約86%がトンネルで、南アルプスと中央アルプスはトンネルで越えます。
ルート・工事マップ|リニア中央新幹線|JR東海 (jr-central.co.jp)
もちろん、フォッサマグナも中央構造線(糸魚川静岡構造線)も横断していくってことです。
国土交通省・超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会にも、交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会にも、地震の専門家はおらず、地震安全性は検討されなかったそうです。
政府の地震調査委員会は、今年1月の最新の発表で、南海トラフで今後40年以内にマグニチュード8~9級の地震が発生する確率を90%に引き上げました。
すでに、2014年12月に着工式が挙行され、2015年から工事が始まっています。開業予定は2027年とされ、予定通りの開業は難しくなっていますが、今後40年以内に開業していることはほぼ間違いないでしょう。
南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さは、気象庁のホームページに日本地図で示されています。
気象庁|南海トラフ地震について | 南海トラフ地震発生で想定される震度や津波の高さ (jma.go.jp)
これに、リニア中央新幹線のルートを重ねてみてください。震度6弱6強の地域もルートに含まれています。沿岸部を走る現在の新幹線に比べれば安全、とは決して言いきれません。
強力な磁力で浮いているから安全、地下空間は地震でも地上ほど揺れないから安全、といっても、磁力で浮いているのは通常の高速走行中で、急減速すれば磁力も弱まります。地下の断層が動いてトンネルが断裂することもありうると思います。
総工事費は、当初の5.5兆円から、「地震対策の充実」6千億円を含め、7兆円に膨れ上がりました。
リニア乗車中に地震が起こったら、運よく安全に急停車できたとしても、そこは86%の確率でトンネルの中、さらにその約5分の1の確率で南アルプスか中央アルプスの地下だったりするわけです・・もうこの先は想像したくないですね。
リニア中央新幹線の事業主体はJR東海です。民間企業ですが、鉄道事業ですから、環境影響評価手続が為されました。しかし、その内容は抽象的で、沿線の地元住民に対する説明責任を果たしたとは言い難い内容だそうです。すでに4つも、沿線住民らによる裁判が提起されています。
抽象的な環境影響評価のなかで、ほぼ唯一、具体的な影響が明記されていました。大井川の流量に対する最大2.11トン減流の予測です。約2トンといえば、山間部の普通の川の平均流量に匹敵します。大井川といえば、江戸時代には「越すに越されぬ大井川」と言われたほど豊かな水量を誇る大河川でしたが、多数のダム建設によってその水資源は収奪、濫開発され、一時期は恒常的に瀬切れが生じるほどの、見るも無残な広大な河原となってしまいました。静岡県にしてみれば、県内を「通過」するだけのリニア中央新幹線に、環境負荷のツケだけ払わされるわけです。
マスコミ報道だけ見ていると、まるで静岡県だけが「未来の夢の乗り物」を邪魔しているように見えますが、静岡県はホームページでその懸念を説明しています。
静岡県/リニア中央新幹線整備工事に伴う環境への影響に関する対応 (pref.shizuoka.jp)
高度経済成長時代の「夢」だったリニア新幹線も、コロナパンデミックを経験した今となっては、本当に要るのかなぁって、思いますよね。
7兆円もあったら、品川-名古屋間の40分より、地方ローカル線の充実、地方の生活を守るほうに回すべきではないでしょうか?
着工するまではものすご~く時間がかかるのに、いったん着工してしまうともう絶対に止まらない、日本の公共事業。
もういい加減、こういう社会構造から脱却しないと、ますます世界に遅れちゃう気がします。
もう一度、みんなで見直してみませんか?リニア中央新幹線。