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サピエンス全史を絵本で読める「こどもサピエンス史」(本の紹介)

 ご紹介する本は、
「こどもサピエンス全史 生命の始まりからAIまで」 NHK出版
 著者:ベングト=エリック・エングホルム
 イラスト:ヨンナ・ビョルンシェーナ
 邦訳:久山葉子

 著者によると、「本書は、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』に触発されて、イラストレーターのビョルンシェーナとともに、こどもたちのために書き下ろしたもの」だそうです。(本書見返しの記載)

 コロナ禍が始まった頃、これからどうなるんだろう、と不安で読み耽っていたのが、すでにベストセラーになっていたサピエンス全史でした。がんばって完読!しましたが、学校で習ったのとは全然違う「人間の歴史」で、書かれている膨大な知識が頭に入りきらず、もう一度読まなきゃと思っていました。

 そうしたところ、この本を見つけました!
 子供向け(小学校の高学年くらい?)に書かれていますが、サピエンス全史を読む時間が無い忙しい大人にも読みごたえのある「絵本」です。
 そう、イラストと文章の分量が同じくらいで、とっても読みやすいです。
 何より、イラストがとってもカワイくておもしろい、大人の絵本っていう感じです。

 1970年代(私の学生時代)に学校で習った「歴史」といえば、四大文明から始まり、人類の進化は類人猿から猿人、原人、と直線的に進化してきたように書かれていました。でも、この半世紀の考古学の進歩は、そんな人類史を完全に塗り替えていました。

 先ず、今の地球上の「人類」はすべて「ホモ・サピエンス」という同じ「種」なのです。髪や肌の色、顔つきや身体つきがこんなに違うのに、遺伝子レベルでは同じ生き物です。人類みな平等とは、単なる理想ではなくて科学の裏付けもできたんですね。
 ホモサピエンスの起源がアフリカの大地溝帯あたりで、約6万年前にグレートジャーニーと呼ばれる地球全域への進出をしたことは、最近、良く知られるようになりました。
 700万年前の気候変動で森が草原に変ったことから2足歩行となり、250万年前には道具を使うようになり、100万年前には火を使えるようになり、40万年前には道具を使い、仲間と協力して、大型動物の狩りもできるようになりました。この間、ヒトの脳は発達して大きくなり、記憶、言葉、想像力、を獲得していきます。これは「認知革命」と呼ばれ、約7万年前くらいまでには起こっていたと考えられています。こうしてホモサピエンスはグレートジャーニーに出立するわけですが、その先々では、他の人類(ネアンデルタール人など他のホモ属)や多くの大型動物が絶滅していきました。

 次は、約1万2000年前に始まった「農業革命」です。植物や動物を手なずけられるようになった一方で、その面倒も見なければならなくなりました。定住し、未来を予想して計画を立て、集団で協働作業、共同生活をすることになります。
 集団は、部落から村、都市、そして文明に発展し、約5000年前には「文字」(シュメール人の楔形文字)が発明されました。この後の数々の出来事は、学校で習ったとおりです。
ただ、それぞれの出来事の外観は習ったとおりでも、その人類史としての意味や位置付けは新しいようです。
 大きな視点で歴史を見直すと、「世界がゆっくりとひとつになっていったのがわかる」そうです。そして、世界を結びつけたのは、経済、政治、宗教、の3つでした。

 そして、現代社会につながる直近のターニングポイントが「科学革命」です。ときは16世紀、そう、ルネッサンス、ガリレオ、の時代です。
 それまでの人間の世界は、神様が造ったもの、神様が全部を知っていて、人間は神様の(正確には聖職者の)言うことを聞いていれば良かったのです。それがルネッサンスを通じて、世界には知らないことがいっぱい!と言えるようになり、人間の性来の好奇心は解放され、産業革命を経て、現在につながっているわけです。

 学生時代に習った「歴史」は、四大文明すなわち有史以来のもろもろの政治的出来事の時系列だったわけですが、そもそも人間=ホモサピエンスとはどういう生き物なのか?が解明されていくことで、そのもろもろの外形的事実(そのひとつひとつも詳しく具体的に検証されてきていますが)が、どうして起きたのか、どういう意味があるのか、をより深く理解できるように思います。

 有史以前の人類史、生物としてホモサピエンスの特徴、特に脳と身体器官の機能や役割、もっと遡って拡げれば、そもそも地球上の生物や地球、太陽系や天の川銀河がどうやってできたのか、世界の科学者は今も最新の技術を駆使して、これらの「謎」を日々解明しているなんて、ワクワクしませんか?

 「サピエンス全史」は現在までに解明された人類の歴史の一つの集大成だと思います。
 あの太い二冊を読むのは大変という方、そして未来を担うティーンエイジャーのお子さんをお持ちの方には、ぜひ、この「こどもサピエンス史」をお勧めします。
 人生100年時代、時代遅れになった「学校で習ったこと」をアップグレードしてくれますよ。