アフターコロナは環境経営の時代
バイデン大統領主催の気候変動サミットで、日本は温室効果ガスを2030年までに46%削減(2013年比)する目標を世界に約束しました。今までは26%でしたから、2倍近い意欲的目標です。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書(2014年)は、人類の未来について4つのシナリオを示しました。
「このままでは今世紀末に地球の平均気温は4度前後上昇し、最悪のシナリオが待っている」
そのメッセージは世界に衝撃を与えました。
では、2度未満、1.5℃程度に抑えるにはどうすればよいのか?
これに対してIPCCは、1.5特別報告書(2018年)を発表しました。そこで示されたのが「2050年頃に排出量ゼロ」でした。
コロナパンデミックで世界中の経済が大打撃を受けました。コロナパンデミックもまた、地球環境問題ゆえに発生したものですから、経済の再構築を気候危機回避の方向に求めるのは、正しい選択だと思います。
アフターコロナの世界を考えるとき、変わるもの(こと)、と、変わらないもの(こと)を見極めたいと思います。
人類がコロナを克服できても、気候危機は在り続けるわけですから、温室効果ガス削減、脱炭素の流れはさらに強くなるでしょう。
そして、ユヴァル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史」を読んで、なるほど!と教えられたのですが、人類がグローバルに統合していく流れも、変わらないと思います。
アフターコロナでは、内需型の中小企業でさえも、世界的な経済活動の脱炭素化の流れに無縁ではいられなくなると思います。
EUはすでに「グリーンリカバリー」を掲げ、「炭素国境調整措置」いわゆる国境炭素税の導入を決めています。これは、EUの排出基準に満たない、炭素規制が緩い域外からの輸入品に、新たな関税を課す措置です。遅くとも2023年1月1日までには、炭素集約度が高い産業部門の製品から導入するといわれています。また、欧州委員会は先日、温暖化防止貢献度の事業評価基準「欧州タクソノミー」も発表しました。米国もバイデン政権に代わり、国境炭素調整措置の導入を議論しています。
欧米に製品やサービスを輸出する日本の大企業は、これに直面することになります。そうなると、サプライチェーンにも脱炭素が取引条件に課されてくると予想されます。直接のサプライチェーンに連なっていなくても、脱炭素の要求は、間接的な取引関係にも影響が予想されます。
アフターコロナの企業経営は、財務のPL(損益計算書)と同様に、炭素のPLも必要になるかもしれません。
アフターコロナには少なくとも、自社の温室効果ガス排出量の把握、と、削減計画、は求められるようになると思います。
先日の新聞報道によると、米アップル社は同社に納める製品の生産に使う電力をすべて再生可能エネルギーでまかなうと表明したサプライヤーが110社(同社の主な取引先の約半数に相当)を超えたと発表したそうです。自社で使用する電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目指す「RE100」の運動にも、日本の大手企業が名前を連ねています。
日本政府は、昨年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長政略」を発表しました。
これも「30年46%目標」に合わせて、抜本的な改訂が必要になると思いますが、すご~い内容が盛り込まれています。
「成長が期待される産業(14分野)において、高い目標を設定し、あらゆる政策を総動員」
その14分野とは、
①洋上風力産業 ②燃料アンモニア産業 ③水素産業 ④原子力産業、⑤自動車・蓄電池産業、
⑥半導体・情報通信産業、⑦船舶産業、⑧物流・人流・土木インフラ産業、⑨食料・農林水産業、
⑩航空機産業、⑪カーボンリサイクル産業、⑫住宅・建築物産業/次世代型太陽光産業、
⑬資源循環関連産業、⑭ライフスタイル関連産業、
ほとんどすべてって感じですね。
政策としては、予算では「グリーンイノベーション基金」として、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に10年間で2兆円の基金造成、税制では、産業競争力強化法の計画認定制度を利用して最大10%税額控除の投資促進税制、金融では、日本政策投資銀行の特定投資業務の一環として「グリーン投資促進ファンド」の創設(事業規模800億円)、などなど、気前の良い話が並んでいます。
ただ、どれも、大企業向けって感じが否めません。もちろん、日本の大企業には大いに頑張ってほしいし、大企業が頑張らなければ、すでに周回遅れの感のある日本の50年カーボンニュートラルも実現できないと思います。
でも、アフターコロナは、今までのような、先ずは大企業にガンバってもらえばシモジモまでトリクルダウン、 の期待に基づく産業政策が効果的であり続けるでしょうか?
今までの発想を根本的に変えていくのは本当に難しいなぁと思います。
30年46%削減目標(私としては「30年50%」が覚えやすくて良かったのですが、ここらへんが日本人らしい律儀さかもしれません)、ようやく日本政府もお尻に火が付いたようです。
日本政府は、なかなか大企業頼みから脱却できないようですが、日本経済の約半分は中小企業が担っています。
アフターコロナは、東京より地方、都市より田舎、が復権する時代になるのは、おそらく間違いありません。
日本にはまだ、特色ある美しい地方の地域が残っています。地方の特色を生かしながら、多様な中小企業が地元の人々の生活を支えている、そんな日本になっていければと思います。