カーボンニュートラルには原発が必要?
「EUが原発容認!?」
年明けからのニュースに、世界も日本も動揺しました。グリーンディールを掲げるあのEUでさえ、カーボンニュートラル実現のためには、背に腹は代えられないって原発回帰か?との受け止めが多かったようです。
「EU原発容認」の中身は、EUが2018年からグリーン投資やサスティナブル投資を呼び込むための基準として整備してきた「EUタクソノミー」の対象に、天然ガスとともに原子力発電も加える、というものです。
EUタクソノミー規則(タクソノミーtaxonomyとは分類法という意味です)は、2020年7月に施行され、持続可能な経済活動の目的として6類型(気候変動の緩和、気候変動への適応、水・海洋資源の持続可能な利用と保護、循環型経済への移行、汚染の予防と管理、生物多様性とエコシステムの保護・再生)を定め、それぞれの目的に沿った経済活動を明示した詳細なリスト(グリーン・リスト)を委任規則によって定めます。
委任規則は、EUの内閣にあたる欧州委員会が原案を作成して決められます。
2021年4月には、グリーンリストの第1弾として、気候変動の緩和と気候変動への適応をカバーする委任規則が公表されていましたが、天然ガスと原子力の扱いについては、関係者や加盟国の間で意見が分かれ、欧州委員会の判断が先送りされていました。
こうしたところ、欧州委員会が昨年末にこれらを含める内容の原案を諮問機関に配布し、今年2月2日に一定の条件で天然ガスと原子力発電を含める委任規則案を発表しました。
以上は、JETROの「ビジネス短信」の記事から拾った経緯です。そして、同記事によると、上記の「一定の条件」の原子力発電に関する内容は、次のとおりです。
【原子力発電施設の新規建設と稼働、既存施設の修繕】
2045年までに建設認可を受けている、あるいは2040年までに運転期間延長のための修繕の認可を受けていることを前提に、(a)極低・低・中レベル放射性廃棄物の最終処分施設が稼働していること、(b)2050年までに高レベル放射性廃棄物の処分施設に関する詳細な計画があること、などの全ての要件を満たす場合。
さらに、新規建設の場合は利用可能な最良の技術を、既存施設の修繕の場合は合理的な範囲で安全性向上策をそれぞれ実装すること、2025年からは事故耐性燃料を利用すること、などの条件も課されている。
欧州委、EUタクソノミーに天然ガスと原子力を含める委任規則案を発表(EU) | ビジネス短信 – ジェトロ (jetro.go.jp)
先日、日経新聞のオンライン討論イベント『原発が「持続可能」?割れる世界、日本は』で、この話題がとりあげられました。その内容からも紹介しますね。
EU全体での電源構成は、2019年時点でまだ、火力43.6%、原子力26.2%で、加盟国それぞれの事情があるそうです。
フランスは、よく知られているように、原子力産業を自国の主要産業と位置付け、その電力の7割以上を原子力に頼り、原発関連産業は数十万の雇用を担っています。COP26閉幕を前にマクロン大統領は「数十年ぶりに原発建設を再開する」とメッセージを送り、欧州加圧水型原子炉(EPR)を最大6基建設する計画だそうです。
ドイツは、福島原発事故の直後に「脱原発」を国家的に決定し、現政権にも緑の党が参画している、「脱原発」の旗手ともいえる国ですが、今回の欧州委員会の決定には特に反対していないそうです。EUを支える盟友ともいえるフランス(マクロン大統領)が、現在、EU議長国であり、今年4月には大統領選挙も迫っていることへの配慮だそうです。大統領選挙の候補者は、中道のマクロン氏の他、右側にしかいないそうで、ドイツとしては、マクロン氏の足を引っ張りたくない、というわけです。
ただ、EUとして、長期的な方向としては、再エネの拡充によるグリーンディールに変更は無いようです。
翻って我が国、日本ですが、上記の日経オンラインイベントの最後で、視聴(参加)者アンケート「日本に原発は、必要?不要?どちらともいえない」がありました。結果は、必要62%、不要18%、どちらともいえない20%、でした。私は「不要」で回答しました。
欧州ほど再エネが普及していない日本の現状で、第6次エネルギー基本計画の2030年46%削減、2050年カーボンニュートラル、の実現可能性を考えると、おそらく客観的、科学的、現実的、には「必要」が正解、ということなんだと思います。でも、それっていいですか?
日経オンラインイベント出演者のどなたかも仰っていましたが、福島原発事故を経験したにも関わらず、「やっぱ原発要るじゃん、原発無いと電気賄えないし~」って論理がまかり通るようになれば、また日本国民は考えなくなると思います。早速、関西電力CMに原発が復活していましたよね。
原発は、温暖化ガスは出さない(発電時に限れば)にしても、放射性廃棄物の環境負荷、将来世代への健康影響を考えれば、サスティナビリティとは程遠いものがあります。
加えて日本は、世界有数の地震国であり、人口密度も高い国(事故時に避難できない)です。
なぜ、福島原発事故から、ドイツのように脱原発を決断できなかったのか、今でも悔やまれます。
事故直後、弁護士会の視察でドイツに行って、緑の党の国会議員から「日本は(地震国ですから)原発流はやらないでください。困るのは日本だけではありません」と言われました。
エネルギーシフトの世界的潮流に、すでに周回遅れが見えてきたわが国日本ですが、今からでも遅くない!
できることから、できるところから、原発に頼らないカーボンニュートラルに向けて、地道な努力をしましょうよ。