民事裁判DX いよいよ本格稼働
民事裁判のオンライン申立や訴訟記録電子化を中核とする、改正民事訴訟法と同規則が、今年(2026年)5月21日に全面施行されます。
ざっくり言うと、民事裁判における従来の紙でのやり取りが、ごそっと、裁判所(最高裁判所)が管理するクラウド上での、データでのやり取りに移行する、というイメージです。
世の中の進歩の後塵を排している司法界(私はそれでよいと思っていますが)ですが、ようやくDXの端緒に就くわけで、弁護士業界にも衝撃が走っているようです。
実は、コロナ禍以前から、日本の民事裁判のIT化が、諸外国に比べて遅れていることが指摘されていました。
政府は「未来投資戦略2017」で、裁判手続のIT化推進を掲げ、「裁判手続等のIT化検討会」が設置されました。同検討会は、平成30(2018)年3月に「裁判手続のIT化に向けた取りまとめ『3つのe』の実現に向けて」を公表しました。裁判手続等IT化の主な内容を、e提出(オンライン提出)、e法廷(ウェブ会議等)、e事件管理(オンライン記録管理)、の3つの柱とし、これを3つのフェーズで段階的に進めるとしました。
フェーズ1は、令和2(2020)年から、従来法のもとでウェブ会議・テレビ会議の運用が始められ、その後、フェーズ2として、必要な法改正を経て、オンラインによる口頭弁論期日等が実現し、今回はいよいよフェーズ3を全面施行する段階に至った、ということになります。
今回の全面施行の中核は、裁判所(最高裁)が管理するクラウドシステム『mints(ミンツ)』です。最高裁が独自に開発した専用システムで、民事裁判のminとハーブのミンツのさわやかなイメージからのネーミングなのだそうです。民事訴訟法の第一編(総則)の第七章(電子情報処理組織による申立て等)にいう『電子情報処理組織』が、この『mints』のことです。
ただ、このmintsの利用を強制されるのは、もっぱら弁護士なので、一般の方々には、あまり関係ないかも、と思われるかもしれません。
民事裁判は、訴えの提起(提訴)によって始まるのですが、その後はおよそ三段階の過程を経て進められます。
最初は、双方(原告、被告)がそれぞれの言い分を言い合う「主張」の段階。
ここでは、裁判所が判断すべき争点(双方の言い分が食い違う点)を洗い出すことが目的です。
原告の請求に対し、被告が答弁書で反論、原告が再反論、と何回かやり取りをするうち、争点が煮詰まってきます。
次が、「証拠調べ」の段階。
請求の根拠となる契約書など、書面や物の証拠は、前の主張段階で双方がその主張とともに提出していきますので、ここでいう証拠調べとは主に、証人尋問や当事者尋問の、法廷における尋問を指しています。
最後に、ここまで来ると裁判所も心証(しんしょう:原告と被告のどちらの言い分が正しいかの裁判官の判断)が固まってきていますので、和解、あるいは、判決、をする段階になります。
今年5月21日から全面施行されるのは、裁判を始める申立て段階での書面提出と、「主張」の段階での、当事者がその言い分をまとめた書面(「準備書面」とか「主張書面」とかいいます)の提出、紙や物やデータの証拠提出、について、その提出と受け渡しをmints上で行うこと、を代理人弁護士に義務化する内容です。
従来は、書面に作成して、郵送あるいは持参して、提出や受け渡しをしていました。それが、事務所の執務机のパソコンから、ボタン1つで出来るようになるのですから、便利になります。
これに加え、口頭弁論期日(正式な裁判の日時、法廷で実際に口頭で述べるのが原則)もオンライン可となって、便利になりました。以前は、裁判所の法廷まで出向いて、言うべき内容は予め準備書面にまとめて提出済のところ、自分の事件の順番が来るまで法廷後ろの傍聴席で待って、呼ばれたら代理人席へ行って「陳述します」とひとこと言って、帰ってくる、という、「なんだかなぁ」という作業でした。
正式な「口頭弁論」以外にも、裁判の主張段階には、準備的な手続きがいろいろあるのですが、アフターコロナは特に、ほとんどオンラインになりました。私の事務所から裁判所(大阪地裁、高裁、簡裁)までは徒歩5分もかからないのですが、それでもやはり、どしゃ降りの日などはありがたいですねぇ。
なぁんだ、普通の市民にはほとんど関係ないことじゃないですか? と言われそうですが、そんなことはありません。
今回のmints本格導入は、日本の裁判のDXのほんの始まりにすぎません。
この先も令和9(2027)年度中には、mintsからTreeSへの移行がすでに検討されています。ただ、TreeSは、概要すらいまだ公表されていません。
民事裁判には「管轄」が決められていて、どこの裁判所に提訴しても良いというわけではありません。他方、訴訟代理人となる弁護士は、どこの誰に依頼するのも、依頼する方の自由です。今までは、時間的空間的制約から、自分あるいは裁判所の地元の弁護士に依頼するのが一般的でした。これが、オンライン会議とmintsの本格導入によって、時間的空間的制約は劇的に小さくなりました。これは、司法界、特に弁護士業界に大きな影響を与えると思います。弁護士の仕事の在り方も大きく変わっていくと思います。
まだまだ日本では、一般の方々、中小企業経営者の方々にさえ、裁判は縁遠いものだと思います。しかし、世の中のもめごとの最終執着点は、やはり、裁判所になります。
中小企業経営者の方々には特に、裁判の実情や将来、弁護士とのかかわり方も含め、関心を持っていただけたらと思います。

