COP30
先月(2025年11月)、気候変動に関する締約国会議(COP30)が10日から22日まで(一日延長)、ブラジルのアマゾン川河口の都市ベレンで、開催されました。
アメリカ政府がトランプ政権のもと、政府代表団を送ることさえしなかったなか、期待された成果が挙げられなかったという評価が報道されています。
今月初め、国立環境研究所(NIES)が「どこよりも早い?」と冠していち早く、オンラインで解説トークのセミナーを開催されました。その内容から、私なりに御報告しますね。
最初に基礎知識です。
COP(コップ)とは、Conference(会議) Of the Parties(当事者=締約国)の頭文字の略で、「締約国会議」と訳されます。COPといえば気候変動枠組条約と思いがちですが、条約一般に使われる用語で、多くの国際条約で最高決定機関として設置されています。もうひとつの地球環境問題である生物多様性条約でもCOP(コップ)が2年に一度、開催されています。
COP30は、実は、気候変動枠組条約の第30回締約国会議であっただけでなく、京都議定書第20回締約国会合(CMP20)、パリ協定第7回締約国会合(CMA7)、科学上及び技術上の助言に関する補助機関第63回会合(SBSTA63)及び実施に関する補助機関第63回会合(SB63)も、同時に開催されています。これは、気候変動枠組条約のもとに京都議定書とパリ協定があり、SBSTAとSBIは条約に定めのある補助機関であるからです。
今年のCOP30には、いろいろ期待がありました。
世界の平均気温が史上最高を記録し、パリ協定の目標である産業革命前より1.5度を超えて1.55度となりました。このメルマガでもお伝えしましたが、今年7月に、国際司法裁判所(ICJ)は、国連総会の要請に応じて、気候変動に関する国家の義務についての勧告的意見を公表しました。この状況から、今年こそ、人類社会は温室効果ガスの大幅削減に向けて野心的な一歩を踏み出せるのではないか、と期待されたわけです。
議長国ブラジルの、森林保護に対する熱い思いもありました。開催都市を首都や他の大都市ではなく、あえてアマゾン川河口のベレンにしたのは、その思いの表れでもありました。
残念ながら、すでにマスコミで報道されているように、目覚ましい前進、といえる成果は得られませんでした。
もっとも残念なのは、化石燃料脱却の工程表(ロードマップ)を示すことができなかったことです。
日経ビジネスの報道によると、脱化石燃料に向けた計画策定は80カ国以上が支持していたのに、まとまらなかったそうです。締約国数198ですから、過半数には届かないまでも、多数ですよね、残念です。もっと残念なのは、日本政府も、中国やロシア、インドと同様、否定的で反対の立場をとったそうです。
国立環境研究所の解説トークで、私が印象的だったのは、このように化石燃料脱却ロードマップが難航する大きな原因の一つが、実はパリ協定に化石燃料脱却が明記されていないこと、に在る、という解説でした。
え!そうなんですか?
パリ協定の1.5度目標の達成には温室効果ガスの排出削減ということは、つまりイコール「脱炭素」だったんじゃないんですか? そう思い込んでいましたが、そうじゃなかったんですね。
確かに、言われてみれば、温室効果ガス排出と化石燃料利用は、≒ニアリーイコール、ですけど、=イコール、ではないですね。
気候変動枠組条約COPの長い歴史のなかで、化石燃料に関する合意がはじめて為されたのは、なんと、4年前のCOP26、グラスゴー気候合意、なのだそうです。排出削減対策のない石炭火力発電の段階的削減、という極めて限定的かつ腰の引けた表現ながら、とにもかくにも初めて、「石炭」が明記されたのだそうです。
翌年のCOP27では、COP26の記述を再確認しつつも、「全ての化石燃料」への拡大案は否決されてしまったそうです。
しかし、次の年のCOP28のUAEコンセンサスでは、エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却、の記述が入り、全ての化石燃料を対象とした初めての合意で、今後10年間で行動を加速させることも確認されました。
COP28では、GST(グローバル・ストックテイク)も導入されました。これは、パリ協定に基づく世界全体の進捗確認の仕組みなのですが、第1回のGSTでは、各国の2030年目標を足し合わせても、パリ協定の1.5度目標達成には不十分であることが確認されました。そのため、2035年までに世界全体で2019年比60%削減が必要とされ、世界各国は今年2025年に、2035年目標を策定して提出することになっていました。
ただ、今年のCOP30開催までの、各国の2035年目標の提出状況は芳しくなかったそうです。
今年のCOP30のカバー決定「グローバル・ムチラオ決定」で、未提出国に対して可能な限り早期に提出するよう促す、なんて書かれているのはこのことを指しています。
もう、こんなに暑くなってるのにぃ~!何やってるんですかぁ~!
と言いたくなりますよね。
今更ながら、恥ずかしながらですが、「温室効果ガス排出削減」が当然に「化石燃料の使用削減」に直結しない、というのは、目からウロコ、でした。
確かに、生活のレベルで「化石燃料の使用を減らす」となると、今の日本では、電気もガスもガソリンも、輸入品から移動まで、何もかもが「化石燃料」抜きではありえません。この生活をガラッと変えろと言われても、ひとりの消費者としては、やれることに限界を感じます。
でももう、そういう時代なんですね。
生活レベルで真剣に考えないと、孫やひ孫に顔向けできないことになりそうです。
今年のCOP30は、少しショボかった(関係者の皆さま、ごめんなさい)かもしれませんが、国立環境研究所の報告者の方によれば、それでも少しづつ、人類社会全体としてみれば着実に、前進しているといえる、とのことです。
アメリカも、パリ協定は離脱するものの、気候変動枠組条約の締約国ではあり続けるそうです。
来年、再来年のCOPに期待して、人間(ホモ・サピエンス)はそんなにおバカじゃないと信じたいですね。

