営農型太陽光発電 ソーラーシェアリング
今月(2025年11月)初め、太陽光発電協会(JPEA)の第42回太陽光発電シンポジウムをオンラインで視聴しました。世間では太陽光発電に逆風が吹き始めていますが、再エネ事情の最先端を知ることができるので、ここ数年、楽しみにしています。
今年、私にとって最も興味深かったのは、農林⽔産省⼤⾂官房環境バイオマス政策課再⽣可能エネルギー室 室長 栗田 徹 氏の御講演「農業と太陽光発電について」でした。なかでも特に、営農型太陽光発電については、目から鱗、でした。
ソーラーシェアリングとも呼ばれ、農業と再エネの良いトコ取り、一挙両得、みたいなイメージがありますよね。私も、太陽光はもっぱら都市部でしょ、という意見ですが、ソーラーシェアリングなら農村でも良いかも、なぁんて思ってました。
営農型太陽光発電とは「農地に簡易な構造でかつ容易に撤去できる支柱を立てて、上部空間に太陽光を電気に変換する設備を設置し、営農を継続しながら発電を行う事業」をいいます。この支柱の基礎部分については、農地法4条1項、5条1項の農地転用許可(この場合は一時転用許可)が必要となります。(平成25年3月31日付農振第2657号農林水産省農村振興局長通知)
その農地に所有権などの利用権限を有しない事業者が発電事業を行う場合には、農地所有者等との間で、支柱部分については賃借権等、農地上空の発電設備設置部分については区分地上権(民法269条の2)等を設定してもらったうえで、上記に加えてさらに、農地法3条1項の権利設定許可を得る必要があります。
農地転用許可は、通常はそう簡単に認めてもらえないのですが、営農型太陽光発電は着々と増えてきているそうです。
平成25(2013)年度以降、令和4(2022)年度までで、営農型太陽光発電のための一時転用の許可件数は年々増え続け、累計5351件(令和4年度分975件)、その下の農地面積も累計1209.3ha(令和4年度分222.1ha)、となっています。
では、そこでどんな作物が栽培されているのでしょう。
もっとも多いのはなんと、「観賞用植物」(さかき、しきみ、せんりょう、たまりゅう、等)で、1854件(全体の36%)だそうです。他方で、主食系の米、麦、大豆、そば、は462件、全体の9%に過ぎません。ちなみに、野菜等は29%、果樹は13%、となっています。
どうですか?意外ですよね。講演された農水省の室長さんも「皆さん、さかきの畑なんてご覧になった方、いらっしゃいます?」とコメントされていました。
では、農業者さんご自身は発電事業に活路を見出しているのでしょうか?
これも、令和42022)年度末で存続している営農型太陽光発電設備で回答が得られた5164件の発電設備についてみると、いわゆる発電事業者が設置したものが70%(3618件)、農業者や農地所有者が設置したものは30%(1546件)、と、発電事業者による設置が多数を占めています。
これを下部農地の営農状況についてみると、発電事業者が設置した下部農地は、ほとんどが設置者以外の者が営農しており、農業者や農地所有者が設置した下部農地は、ほとんどが設置した農業者さんらご自身で営農されています。
令和4(2022)年度末において、営農に支障(一時転用不許可要件である単収2割以上減少を含め)があったものの割合は22%(同時点で存続していた4189件のうち927件)となり、前年度より1%上昇(237件増)したそうです。
農水省も「近年においては、発電に重きを置き営農がおろそかにされ、営農型太陽光発電設備の下部の農地の利用に支障が生じている事例が散見されていたことから、営農が適切に継続されない事例を排除し、農業生産と発電を両立するという営農型太陽光発電の本来あるべき姿とするため」として、従前は局長通知で運用していた許可基準や提出資料を農地法施行規則(令和6(2024)年4月施行)に格上げして、具体的な考え方や取り扱いについてガイドラインを制定しました。
また、年1回の定期報告で、営農に支障が生じている場合には、現地調査を行って改善等を指導し、指導に従わない場合には、原状回復等の措置命令、命令に従わない事業者の公表、を、農地法51条3項で規定しました(令和7(2025)年4月施行)。
さらに農水省は、下部農地での営農が適切に継続されていないなど違反転用状態にある営農型太陽光発電事業等の情報を資源エネルギー庁にも提供し、同庁はその情報をもとに、FIT/FIP交付金の一時停止措置を講じました。
というわけで、営農型太陽型発電(ソーラーシェアリング)の現状は、玉石混合、といったところのようです。
農水省としても、営農型太陽光発電を全否定すべきとは考えていないようで、「望ましい営農型太陽光発電に関する検討会」を立上げ、今年(令和7(2025)年)5月から議論を重ねています。
同検討会の第1回資料によると、作付面積で上位を占める、さかき、ブルーベリー、は、ほとんどが「育成中」などと報告されて収量が無い一方、作付面積が比較的少ないながら、米、大豆、そば、は単収が確保できている割合が高い、と報告されています。
今後、同検討会では、品目、生産性、生産者、地域共生、の論点で議論を深めていき、地域の判断に資する、望ましい取組の指標をわかりやすく整理することで、不適切な事案を排除しつつ、優良な取組の標準化を図りたい、としています。
そもそも、農地法が農地の移転や転用を厳しく規制しているのは、放っておいたらドンドン宅地化され、市街化してしまうからに他なりません。営農型太陽光発電も、今はまだ、良くない発電事業者が農地や農業者を食い物にできる隙がたくさんある、ということなんですね。地域とそこで営農する方々のための太陽光発電事業になってもらいたいものです。
最後に、農地法は農村土地利用に関する基本的法律ですが、その第1条(目的)にはとっても高尚なことが書いてありますので、読んでみてください。
農地法
(目的)
第一条 この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。

