カスタマーハラスメント
今年(2024)6月、JALとANAが共同で「カスタマーハラスメント」への対処方針をまとめ、発表しました。飲み物が入ったコップを投げつけたり、土下座をさせたり、乗客にもそんな人がいるんですね。驚きです。
パワーハラスメントが自社内であるのに対し、顧客や取引先従業員から自社従業員に対するハラスメントを「カスタマーハラスメント」といいます。
令和元(2019)年6月に労働施策総合推進法が改正され、同法第9章「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」の第30条の2(雇用管理上の措置等)で、事業者の雇用管理上の措置等義務が明記され、同条3項による厚生労働大臣の指針(令和2(2020)年1月)には、カスタマーハラスメントに対し事業者の取り組みが望ましい内容が示されました。
カスタマーハラスメントへの取り組みが、事業者の法的義務になってきています。
カスタマーハラスメントとは、次のようにまとめられています。
『顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの』
少し難しくて解りにくいですよね。
簡単に判りやすくしてみましょう。式で書くと、次のようになります。
【①要求内容の妥当性】✖ 【➁要求実現の手段・態様の相当性】
ただ、ここで注意すべきなのは、顧客や取引先からのクレームには、正当な改善要求も、もちろん含まれることです。
正当な改善要求はむしろ企業にとって、業務改善の契機であり、真摯に向き合うことで、事業発展の財産になります。
そこで先ずは、顧客や取引先からのクレームのうち、正当な改善要求とカスタマーハラスメントをきちんと見極め、振り分けることが肝要です。カスタマーハラスメント該当性を判断する基準は、上記式で考えると判りやすいと思います。
【①要求内容の妥当性】
先ずは、要求の内容をきちんと把握しましょう。
要求者から丁寧に聞き取りをして、必要なら関係者からも聞き取りをして、客観的事実の認定をします。事実認定は意外に難しいものですが、5W1Hと時系列、を活用するのがコツです。
認定した客観的事実で自社に過失や瑕疵が認められなければ、要求は不当で、カスタマーハラスメントとして扱います。
【➁要求実現の手段・態様の相当性】
要求者の言動が刑法犯罪にあたる場合、や、従業員への人権侵害にあたる場合、は、それ自体が違法なので、自社側に何らかの過失や瑕疵が認められる場合であっても、カスタマーハラスメントとして扱います。
刑法犯罪としては、傷害罪、暴行罪、脅迫罪、恐喝罪、強要罪、名誉棄損罪、侮辱罪、信用毀損罪及び業務妨害罪、威力業務妨害罪、不退去罪、が考えられます。どんな犯罪類型なのか、刑法の条文を一度、読んでみるのも面白いですよ。
犯罪とも人権侵害とも言い難い場合でも、自社側の落ち度(過失や瑕疵)の程度に比べて、要求が法外な場合(例えば「慰謝料1億」など)、カスタマーハラスメントして扱うべきでしょう。これは「比例原則」という法律の考え方で、目的と手段の間に均衡を必要とするものです。
では、自社での取り組みを考えてみましょう。
先ずは、自社のカスタマーハラスメントの判断基準を明確にして、社内で共有しましょう。
これは、現場で迷わないようにするためです。
判断基準は、業種や各企業の事情に応じて、上記の考え方で具体化します。
カスタマーハラスメント対策はトップマネジメントですから、社長が基本方針・基本姿勢を明確に示し、従業員さんに周知・啓発し、できれば対外的(顧客や取引先)にも公表するのが良いです。
相談対応者を決める、相談窓口を設置する、対応の方法や手順を決める、社内研修で周知する、なども必要です。
実際にカスタマーハラスメントが発生した場合、対応の注意点をいくつか指摘しますね。
○正確な客観的具体的事実(要求者からの丁寧な聞き取り、関係者からの聞き取り)をなるべく早く把握する。
特に初期対応は肝心です。初期対応を誤らないよう、専門家に相談したり、後記資料を参照したり、してください。
○カスタマーハラスメントを受けた従業員へ配慮を怠らない。
社内で無責任な噂が拡がらないための情報管理や関係者のプライバシー保護が必要です。
不利益取扱いも禁止されています。
○再発防止と継続的改善も忘れない。
厚生労働省の資料のリンクも貼っておきますね。参考にしてください。
カスタマーハラスメント対策リーフレット 001168047.pdf
カスタマーハラスメント対策企業マニュアル cusuhara_manual.pdf 同正誤表001070520.pdf