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「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」経済産業省

 今年3月、経済産業省から「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」が公表されました。

 少子高齢化が進展し、少子化や若年労働力不足は「社会問題」として認識されるようになりましたが、高齢化による介護の問題はいまだ「個人や家庭の問題」という意識が強いようです。
 しかしすでに、育児と同様、介護も、個人や家庭だけで担えるものではなくなりました。仕事をしながら介護に従事する「ビジネスケアラー」の増加は、育児以上に、企業の人的資源を直撃する問題といえます。
 
 このガイドラインは、ビジネスケアラー支援がすべての企業の経営課題であることを、先ずもって経営者に認識してもらうために公表されました。

超高齢社会と共働き世帯の標準化
 日本が超高齢社会に突入していることは、皆さんもご存知ですよね。
 2020年に1人の高齢者(65歳以上)を2人の現役世代(生産年齢人口、15~64歳)で支えていましたが、2050年には、1人の高齢者を1.4人の現役世代で支えることになると予測されています。

 専業主婦の減少も、介護の家庭内負担を困難にしています。共働き世帯と専業主婦世帯の比率は1992年に逆転し、2023年には共働き世帯は専業主婦世帯の2倍以上になりました。介護は長男の嫁の務め、という時代はとっくに終わっているのです。
 
 日本は、失われた30年のなかで、ワークライフバランスの宿題も30年間サボってきたわけです。

ビジネスケアラー対応は経営課題 
 ガイドラインでは、2030年には家族を介護する833万人のうち、約4割(約318万人)がビジネスケアラーとなり、これは労働力人口の21人に1人にあたるという予想が示されています。
 
 仕事と介護の両立困難による経済的な影響は、2030年において合計9兆1792億円の経済的損失となる予測が示されています。
 これは、大企業(製造業・従業員数3000名)で1社当たり年間6億2415万円、中小企業(製造業・従業員数100名)で1社当たり年間773万円となるそうです。
 
 企業が経営課題として仕事と介護の両立支援に取り組むことは、人的資本経営の実現による中長期的な企業価値の向上、人材不足のなかでも持続的に事業と組織を運営するためのリスクマネジメント、の意義があります。

ガイドラインの視点 
 ガイドラインでは、自社における意義や重要性を把握するために、両立支援を講じないことによるリスクと、講じることによるリターンを、経営戦略(経営層視点)、組織マネジメント(人事部門視点)、現場パフォーマンス(管理職/従業員視点)の3つの観点から、企業に与える影響を整理してみることを示しています。

 その際、介護を抱える従業員の実情に、次の3つの特徴があることを、踏まえる必要があります。

①自身の介護状況開示への消極性(キャリアへの影響懸念、介護は育児と違って「始まり」が判りにくい)
➁介護状況が個々人によって多様かつ可変であり、将来予測が困難(終わりが見えない)
③肉体的負担に加え精神的負担も増加
 
 介護は初期的な対応を行えば一定程度マネジメント可能な課題であり、早期の対応でリスク回避もできるものの、未だ、経営者にも従業員にも「介護は個人や家庭の問題」とする意識が根強く、対応が遅れることによる負のスパイラルに陥りがちです。
 介護の負荷による意欲や生産性の低下、長期休職、ひいては介護離職に繋がってしまいます。
 
 負のサイクルを断ち切るには、まず経営者がコミットメントすることで、組織内の機運を醸成することが重要、とガイドラインは強調しています。

 では、何からどのように取り組めばよいのでしょうか?

ガイドラインが示す具体的取り組み

STEP 1 経営者のコミットメント
 先ずは、経営者自身が「介護」について勉強してください。
 次に、全社的に、特に経営幹部に対して、自社は従業員が仕事も介護も両立できるよう支援すること、のメッセージを発信しましょう。
 そして、そのための推進体制の整備を進めます。

STEP 2 実態の把握と対応
 実態把握は、全社アンケートや個別聴取ですが、個人面談の際に聴取項目にするのも良いです。
 但し、プライバシー保護と査定には影響しないことの明示は必須です。

STEP 3 情報発信
 育児・介護休業法や介護保険鮮度、地域包括支援センター、などの法制度、行政制度、は、かなり整えられていますが、あまり知られていないのが実情です。日頃から、こうした法制度、公的制度などの基礎情報を従業員に周知することは、とっても重要です。
 また、介護は個人的問題、との意識も根強いので、全社的に介護を抱える社員さんを支えて応援するよ、という気風を作るための研修も有意義です。行政のサイトにも研修アイテムが在りますから、活用はおススメです。
 日頃から勉強して知っているつもりでも、いざ自身がビジネスケアラーになったら、何からどうしたら良いのかわからないこともあります。社内に相談窓口を設けたり、相談できる先を明示しておくことも重要です。

「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」について (METI/経済産業省)

ガイドラインはこちら↓
 main_20240326.pdf (meti.go.jp)