ブログ

プラスチック新法できました。施行は来年4月から。

 8月30日、大阪府中小企業家同友会の環境経営部会で、「プラスチックごみをなくそう~プラスチック新法から『循環型社会を考える』~」と題して、大阪大学大学院法学研究科教授の大久保規子先生にご講演いただきました。大久保先生、ありがとうございました。オンラインで50名以上の参加があり、アンケート結果も大変好評でした。
 ご講演から、プラスチック新法(正式名称は「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」です)の内容をご紹介しますね。

 プラスチックごみの問題は、鼻にプラスチックストローが刺さった気の毒なウミガメのインパクトある映像の効果もあって、自然生態系、特に、海の生態系に対する、プラスチックごみ、それが風化したマイクロプラスチック、の悪影響が世界中で問題になりました。


 日本は、ワンウエイ(使い捨て)プラスチックの使用量が世界で2番目です。回収されたうち多くが中国や東南アジアへ「資源」として輸出されていました。ところが、2017年に中国が国内環境汚染を理由に輸入を規制し、その後、東南アジア各国もこれに続きました。
 2019年には、バーゼル条約(正式名称は「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」)第14回締約国会議(COP 14)で、プラスチック廃棄物を新たに条約の規制対象に追加する条約附属書の改正が決議されました。

 この間、2018年6月に開催されたG7(カナダ、シャルルボワサミット)で「海洋プラスチック憲章」が採択されましたが、日本(安倍首相)は米国(トランプ大統領)とともに署名を拒否しました。しかし、その後の国際世論に抗えなかったのでしょうか、2019年6月に大阪で開催されたG20で、日本は「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提唱しました。そこでは「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減する」としています。
 ちなみに、2018年に日本が署名を拒否した「海洋プラスチック憲章」は「2040年までにすべてのプラスチックを産業界および中央政府、地方自治体の協力のもと100%回収する」としていました。

 日本政府資料によると、2019年の我が国のプラスチックマテリアルフローでは、廃プラの85%をリサイクルしているとしています。その内訳は、61%がサーマルリサイクル(焼却して熱を利用)、22%がマテリアルリサイクル(細分解して利用)、3%がケミカルリサイクル(化学的に分解して利用)、です。
 廃棄物処理とリサイクルの基本法である循環型社会形成推進基本法では、廃棄物の処理とリサイクルについて、優先順位を明記しています。
  1番は 「発生抑制(リデュース)」
  2番めは「再使用(リユース)」
  3番めに「再生利用(リサイクル)」
  4番が 「熱回収(サーマルリサイクル)」
  最後に 「適正処分」です。
 サーマルリサイクルはリサイクルのうちには入らないはずなんですよね。そうすると、先ほどの2019年の政府資料でリサイクルできていると言えるのは、わずか25%ということになります。

 バーゼル条約の改正(今年1月に発効)もあって、いよいよ本気でプラスチックごみの国内処理、そもそもプラスチックを「ごみ」にしないために、今年6月、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラスチック新法)が制定されました。来年4月から施行されます。
 2019年5月に関係省庁で決定された「プラスチック資源循環戦略」では、次のとおり、マイルストーンが決まっています(一部略)。

リデュース →2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制
リユース・リサイクル →2035年までに使用済プラスチックを100%リユ―ス・リサイクル等で有効利用
再生利用・バイオマスプラスチック →2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入

 プラスチック新法が画期的なのは、プラスチックという「素材」を対象にしている点です。今までは、容器包装リサイクル法や家電リサイクル法など、個別の「製品」ごとでした。製品の設計からプラスチック廃棄物の処理までに関わるあらゆる主体におけるプラスチック資源循環等の取組(3R+Renewable)を促進するための措置を講じる、としています。

 主な措置内容は、次のとおりです。

1 基本方針の策定
 対象事項は、プラスチック廃棄物の排出抑制、再資源化に資する環境配慮設計、ワンウェイプラスチックの使用の合理化、プラスチック廃棄物の分別収集、自主回収、再資源化、等、です。

2 個別の措置

設計・製造段階
 「環境配慮設計指針」が策定され、指針に適合した環境配慮製品が認定され、消費者が選択できるようになります。

販売・提供段階
 「使用の合理化」として、ワンウェイプラスチック提供事業者(例えば、コンビニでのスプーンやフォークの提供など)が取り組むべき「判断の基準」が策定されます。
 多量提供事業者(年5t以上)で取組が著しく不十分な場合は、勧告、公表、命令、もあります。

排出・回収・リサイクル段階
 市区町村による容器包装リサイクル法ルートを活用した再商品化
 市区町村と再商品化事業者の連携による再商品化計画の認定制度
 製造・販売事業者等による自主回収・再資源化計画の認定制度(廃棄物処理法の業許可を不要とする特例)
 排出事業者の排出抑制・再資源化の判断基準の策定
 排出事業者による再資源化計画の認定制度(廃棄物処理法の業許可を不要とする特例)

 う~ん、鼻にストローが刺さったウミガメからすれば、なんとユルイ!と嘆くのではないでしょうか?
 政府が規格や規制基準を定めて法的に目標達成を目指すというのではなく、政府は指針や基準を示すだけで、基本的には産業界の自主的取組に大いに期待する、という内容です。
 実は、日本の環境規制は、二酸化炭素排出削減策はじめ、伝統的にこの「産業界の自主的取組に任せる」手法を採ってきました。
 しかし、環境法創成期の90年代からかれこれ30年近くこのような手法を続けてきて、日本の地球環境問題に対する取り組みは、欧米(米国は某大統領の下でこの間は少しお休みしていましたが)、最近では中国やアジア諸国に比べても、周回遅れに陥った感があります。
 20世紀は、環境規制と産業振興は相容れない、と考えられてきましたが、この約30年の間の経験は、そうして甘やかしてきたことがむしろアダとなって、日本の大企業の国際競争力を殺いできたように思います。


 大久保先生から最後に、このような産業界の自主的取り組みに期待する制度設計に対して、中小企業はどう考えますか?という質問がありました。日本政府が未だにこのスタンスを変えようとしない言い訳の一つに「中小企業に対する配慮」が在るそうです。
 しかし実態は、大企業と消費者の板挟みの立ち位置にある中小企業にとって、大企業の「自主的取組」は「自己都合」と同義に機能していると言えるのではないでしょうか?
 むしろ、法律や制度で客観的なルールやスタンダードを定め、大企業に政府がきっちり規制や義務付けをすれば、中小企業へのしわ寄せや押しつけもできなくなるように思います。

 皆さんは、どう思いますか?