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身元保証書、見直しましたか?(民法改正で極度額が必要になりました。)

 人を採用される際に、身元保証書の提出を求めている会社も多いと思います。
 「身元保証ニ関スル法律」という法律をご存じでしたか?
 昭和8年成立の古い法律ですが、今も有効です。全部で条文6つの短い法律ですが、重要な内容を定めています。
 漢字カタカナの旧い文体で読みにくいので、わかりやすく書き直してみますね。

第1条
 身元「引受」や身元「保証」など名称に違いがあっても、従業員の行為による使用者の損害を賠償することを目的とした身元保証契約は、期間の定めがなくても、その有効期間は契約成立から3年間となります。
(但し書きは省略)

第2条
 身元保証契約の期間は、5年を超えてはいけません。5年を超える契約をしても5年に短縮されます。
 身元保証契約を更新することはできますが、更新後の期間も5年を超えてはいけません。

第3条
 使用者は、次の場合には遅滞なく身元保証人に通知しなければなりません。
1 当該従業員に業務上不適任または不誠実な事由があり、このため身元保証人の責任が生ずる可能性があることを知ったとき
2 当該従業員の任務や任地を変更し、このため身元保証人の責任が加重または監督が困難となるとき

第4条
 身元保証人は、前条の通知を受けたときは、その後の身元保証契約を解除することができます。
 身元保証人が自ら前条の各事実を知ったときも同様に身元保証契約を解除できます。

第5条
 裁判所は、身元保証人の損害賠償責任の有無および賠償金額を定めるについて、当該従業員の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証契約に至った事由および契約するに際して注意した程度、当該従業員の任務または身上の変化、その他の一切の事情を斟酌します。

第6条
 この法律の規定に反する特約であって身元保証人に不利益なものはすべて無効になります。

 この法律に加え、昨年4月に施行された改正民法によって、さらに「極度額」を定めることが必要になりました。

 身元保証契約は、支払うことになる金額が不確定で上限も無いため、「根保証」契約の一種となります。
 根保証契約とは、「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」(民法465条の2)です。
 賃貸借契約の賃借人の保証人、介護等の施設入居契約の保証人、取引基本契約の代表者保証、も根保証契約になります。
 根保証は、保証人にとって予想外の過大な負担となる弊害が多いため、判例は昔から個別事案で保証人の保護、救済をしてきました。
 そうしてようやく民法も、平成16年改正で、借金(「貸金等」)の個人の根保証について、極度額(保証の上限金額)の定めが無ければ無効、とする保証人保護の規制を課し、さらに、今回改正においては「貸金等」(借金)の枠を取り払って、個人根保証一般に、極度額規制を拡げました。
 その条文を紹介しておきますね。

第465条の2(個人根保証契約の保証人の責任等)
 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 (準用規定→下記の第446条2項3項を準用)
第446条
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

 以前のままの身元保証書を使っているとか、採用の際に提出してもらったまま、というところは、見直されることをお勧めします。
○昨年4月以降の身元保証書には、保証人が個人の場合、民法改正により「極度額」を定めて記載しなければ、無効になります。
○「極度額」は、当該従業員の賃金○年分というような不確定額(算定可能でも)はダメで、金〇〇万円と定額で定めて記載する必要があります。これは、身元保証人の予測可能性を保護する趣旨からです。
○昨年3月以前の身元保証書は、期間の記載が無ければ3年間で、期間の記載が在っても5年を超える期間は5年間で、有効期限が切れています。
○未だ有効期限が切れていない身元保証書を更新して新たに身元保証書を出してもらう場合、以前の身元保証書が有効期限切れのため新たに身元保証書を出してもらう場合、いずれも保証人が個人の場合には、改正された現行民法が適用され、「極度額」を定めて記載する必要があります。
○身元保証契約が有効な間、使用者には、身元保証法が第3条に規定する「通知義務」が課せられていますので、忘れないようにしてくださいね。