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M&A業者に御注意 !!

 昨年(2023)9月に改訂されたばかりの「中小M&Aガイドライン(第2版)」ですが、今年春から急遽、改訂作業が始まり、予定より早い先月(2024年8月)、改定第3版が策定、公表されました。1年足らずで改訂に至った理由として、M&A業者の、手数料額の問題、利益相反の問題、が挙げられています。異例の短期間改訂の背景には、深刻な実情があるのでは、と勘繰ってしまいます。

 最近、私も、業績の良い中小企業が、以前から知っていて業績の悪化した会社について、M&A業者から買い受けを持ち掛けられた、という事案を経験しました。以前なら、もとより知り合いの会社なので、業者など介さずとも、直接の話合いで解決する案件です。この事案を通じてM&A業者の実態を垣間見ることができました。
 M&A業者さんご自身は、登録事業者であること、ガイドライン遵守を制約していること、を謳っています。
 しかし、今回改訂された第3版のガイドラインでも、弁護士としての私の知見と経験からすれば、まったく不十分だと思います。

 業績の良い中小企業経営者の皆さま、
 M&A業者から、知っている会社の買受けを持ち掛けられたときには、その業者の言うことに従ったり、その業者と契約したりなどせず、先ずは、知り合いの弁護士に相談するようにしてください。
 本来、M&Aは法律事務である交渉案件であって、弁護士の仕事(弁護士法72条)なのです。

ガイドラインの限界その1 双方契約(利益相反関係)は根本的に無理

 法律交渉を日常的仕事とする弁護士の感覚からすれば、双方受任(利害の対立する当事者双方から委任を受けること)は基本的にNGです。ご本人の同意があれば例外も認められますが、あくまで例外です。
 しかし、M&A業界では双方受任が一般的です。ただこれは、我が国のM&A業界に特有の現象だとも聞きました。

 例えば、あなたが骨董品を買うとしましょう。骨董は、評価や値決めが素人には判りにくいですよね。骨董店で、店が雇っている客向けのアドバイザーが現れたとします。あなたは、このアドバイザーにお金を払ってご自身のためのアドバイスを頼むでしょうか?

 業績が悪化した会社(X社とします)の買受を持ち掛けてきたM&A業者も、すでにX社から委任を受けていて、秘密保持契約とアドバイザリー契約を締結していながら、売り先である業績の良い会社(A社とします)にも、秘密保持契約とアドバイザリー契約を求めてきました。そして、M&A業者は依頼主であるX社から手数料を得るのみならず、相手方であるA社にもそれ以上の手数料を要求します。M&A業者はA社社長に、M&Aとはそういうものだ(双方と契約して双方から手数料をもらう)と説明したそうです。

 相場など無い売買の場合、売り手と買い手のそれぞれの利益を最大化させれば、契約が成立することはありません。利害が相対立する双方当事者と、それぞれ秘密保持契約を締結すること自体、矛盾しています。

 今回の改定第3版では、相手方の手数料についての説明義務(相手方の予算範囲で売買価格と矛盾するため)、一方当事者の利益を図る利益相反行為の具体的禁止、が盛り込まれました。
 しかし、問題の根っこは、そもそも、双方受任に在ります。
 売り手と買い手の間に同一人が立ってできることといえば、仲介(マッチング)以上にはありえません。
 国が示すガイドラインとしては、双方にアドバイザリー契約をして双方から高額手数料という「業界常識」にこそ、規制のメスを入れてほしいものです。

ガイドラインの限界その2 「最低手数料」は根拠なし

 以前の第2版から問題にされていたM&A業者の手数料ですが、最大の問題は「最低手数料」です。
 ガイドラインは算定対象額や算定方法の説明の問題にしていますが、肝心の「最低手数料」は合理的根拠も検証されないまま放任されています。最低手数料は、500万円あるいは1000万円が一般的ですが、放任されるままに1000万円が増えているように感じます。

 M&Aに似た法律業務に、管財業務があります。管財人は、弁護士が裁判所から選任され、その報酬額も裁判所が決定します。
 管財人報酬の金額水準に比べると、M&A業者の最低手数料は、ぼったくりともいうべき高額です。

 X社の買受けを持ち掛けられたA社の場合も、M&A業者から最低手数料1000万円を要求されました。それに見合う業務が期待できなかったので交渉してみると、すぐに700万円に値下げしてきました。さらに、本来の依頼主であるX社からの手数料は250万円であることも判りました。
 1000万円の根拠を訊いてみると、東京の大手業者の最低手数料は最低2000万円、などと言い、事業承継引継ぎ補助金もがあるから実際の支払額にはならない、などとも言いました。

 今回のガイドライン改訂(第3版)では、最低手数料そのものに規制のメスが入っていません。

 中小企業の事業承継が日本経済にとって喫緊の課題であり、M&Aも有力な対策手段のひとつになっていることは認めます。
 しかし、国民の血税が、当の中小企業を潤すのではなく、M&A業者の言い値の報酬に対する補助金として、もっぱらM&A業者を潤すことになっているのは、いかがなものかと思いませんか?

「中小M&Aガイドライン」を改訂しました | 経済産業省 中小企業庁 (mirasapo-plus.go.jp)

中小M&Aガイドライン | 中小企業庁 (meti.go.jp)