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Eco-DRR 生態系を活用した防災・減災

Eco-DRR、エコ・ディー・アール・アール、と読みます。
Ecosystem-based Disaster Risk Reduction の略で、生態系を活用した防災・減殺の考え方です。

 2016(平成28)年2月に環境省自然環境局から公表され、生物多様性国家戦略2023-2030にも採り入れられました。いわゆるグリーンインフラの考え方です。例えば、山林の水源涵養・治水の機能や、海岸林の防風・防潮の機能、などです。

 日本は、4枚のプレート(太平洋プレート、フィリピン海プレート、北アメリカプレート、ユーラシアプレート)がせめぎ合う、世界でも稀有な立地に在ります。国土が狭いと言いながら、氷山の海からサンゴ礁の海まで、南北約3000キロの長さがあり、海岸線から富士山の頂上まで、標高差も約3800mもあります。
 小学生の頃から、日本は資源の無い国、と教えられてきましたが、それはあの時代(高度経済成長期)に主な資源だった石油が無いというだけで、あの時代には無視されていた生物多様性でいえば、日本は世界にもまれにみる生物資源の宝庫であり、自然環境の多様性の宝庫でもあります。
 狭い国土にギュッと詰まった、多様で変化に富む自然は、私たちに素晴らしい恵みをもたらすと同時に、災害も多発させます。
 日本は世界有数の地震国で、世界の大規模地震の約2割が発生します。東北震災の直後、弁護士会からドイツへ原発廃止の視察に行った際、ベルリンの国会議事堂で、緑の党の国会議員から、ヒアリングの最後に、地震国の日本で原発をするのは世界が迷惑するから止めてほしい、と言われました。もっともだと思います。今回の能登半島地震でも、志賀原発(稼働停止中でした)のある志賀町では震度7を記録し、珠洲市の能登半島先端部分には凍結中ながら2つの原発計画があります。

 Eco-DRR、生態系を活用する防災・減災の基本的な考え方は、次の3つです。

危険な自然現象の発生を抑える:ハザードの軽減
 森林や緑地の雨水貯留・浸透機能を期待して森林整備や緑地拡大をする、水田やため池の遊水地機能に期待して棚田の保全や水田やため池を整備する、などです。
 これらはまた、温暖化ガス吸収源の役割も期待できます。

土地の成り立ちを考慮した利用を行う:暴露の回避
 高度経済成長期には、人口増加と都市部への集中、これに伴う宅地需要に応えるため、かつての氾濫原や土砂災害リスクのある斜面まで、次々と宅地開発が拡大していきました。
 しかし、少子高齢化で人口減少モードに入った今、この先の時代を考えれば、土地利用のありかたは抜本的に見直されるべきです。もちろん、今現在すでに災害リスクの高い場所で生活しておられる方々もおられるので、これは長期的かつ計画的に、そして丁寧な合意形成にもとづいて、進める必要があります。
 地震リスクは予測が難しく厄介ですが、水害リスクなどについては、各種ハザードマップも充実してきています。Eco-DRR推進のための生態系保全・再生ポテンシャルマップの作成の手引き(後記サイト)にも、参考資料がいろいろ紹介されています。国土地理院「明治期の低湿地データ」という興味深い(そしておそらく、かなりな労作)資料も紹介されていました。
明治期の低湿地データ | 国土地理院 (gsi.go.jp)

危険な自然現象に対する緩衝帯として生態系を利用する:脆弱性の低減
 我が国では、伝統的な技術として、津波被害の低減や防風・防砂を目的とした海岸防災林、洪水時に流木や土砂等が背後の農地等へ流入することを防ぐ水害防備林、防風・防雪や日射の遮蔽等を目的とした屋敷林など、生態系の機能を巧みに利用してきました。
 宮崎シーガイア開発では、海岸林の大規模伐採が問題となりました。しかし当時は、海岸林の価値は正当に評価されませんでした。東北震災の際には、各地の海岸林が漂流物を補足して津波被害を軽減させたことが知られています。そして、日本を代表する景観美に、遠景の富士山とともに、近景を彩る三保の松原が欠かせないことは、言うまでもありません。

 最後に、昔、弁護士会で琵琶湖の自然を調査した際に聞いた話をしますね。
 高水位時の治水対策という湖岸堤防の建設事業に対し、住民の多くが反対しました。その理由は、50年に1度の洪水のために毎日コンクリートの壁を見て暮らすより、日頃は琵琶湖の波打ち際を見ながら暮らし、高水位には別に備えておけば良い、という意見だったそうです。
 平時と緊急時のバランスは、財源や価値観も絡んで難しいですが、Eco-DRRなら、昭和の防災より上手くバランスをとれるのでは、と期待します。

 高度経済成長期の急増する宅地需要に対応するには、コンクリート構造物で水を封じ込める必要があったと思います。でも、すでにそういう時代は終わったし、コンクリート構造物の絶対安全が神話にすぎなかったことは、気候危機と列島活動期で激甚化、頻発化する最近の災害が示しています。

 Eco-DRRなんて横文字になると、耳慣れない新しい考え方のように聞こえますが、基本的には、私たち日本人のご先祖さま方が、長い時間をかけて、そしておそらく多くの犠牲も伴いながら、営々と築き上げてきた、この日本列島と共存する知恵、と同じことのように思いました。
 人口減少も、ジェンダー不平等と格差社会の産物の部分を除けば、そんなに悪いことでもないと思います。

 生態系を活用した防災・減災 | 自然環境・生物多様性 | 環境省 (env.go.jp)