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行き過ぎたタワマン節税にNG 最高裁判決

 タワーマンションの実勢価格と相続税評価額の乖離を利用した「節税」が問題となり、相続税法(第22条)の解釈を定める「財産評価基本通達」のタワマンに関する見直しがパブコメ中です。
「居住用の区分所有財産の評価について」の法令解釈通達(案)に対する意見公募手続の実施について|e-Govパブリック・コメント
 これの詳しい資料は、国税庁の令和5年6月30日の報道発表資料にあります。
0023006-018.pdf (nta.go.jp)

 令和5年度与党税制改正大綱(令和4年12月16日決定)に「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」旨が記載されましたが、その理由は前年令和4年に出された最高裁判例でした。
 税務については税理士さんにお譲りするとして、その最高裁判例(第三小法廷)をご紹介しますね。

 先ずは、法律の枠組みがどうなっているか見てみましょう。

 相続税の課税価格(遺産の評価額)について、相続税法第22条は時価としています。
<相続税法>第三章 財産の評価
(評価の原則)第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

 では、「時価」はどうやって算定するの?ってことになりますが、国税庁の行政解釈は、財産評価についての法令解釈通達(「財産評価基本通達」)として決めています。
 この評価通達の「総則」の(評価原則)1 は「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、(略)、この通達の定めによって評価した価額による。」と定めています。
 税理士さんらから聞き及んでいる限りでは、この評価通達は相続税務のまさしく「金科玉条」なのだそうです。

 ただ、「総則」の最後には、6(この通達の定めにより難い場合の評価)として「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」とも定められています。

 判例の事案は、タワマンの実勢価格と相続税評価(評価通達による算定価格)との乖離を利用して、通達の評価原則1によって相続税ゼロの申告をしたところ、税務署長は通達の6(この通達の定めにより難い場合の評価)による更正処分(課税価格合計8億8874万9000円、相続税総額2億4049万8600円)及び賦課決定処分をしました。

 この裁判は、財産評価基本通達の原則通りの算定法に拠らないことは相続税法22条の解釈適用を誤ったものとして、上記更正処分等の取消を求めたものです。

 では、具体的に事案の内容を見ていきましょう。
 問題点を判りやすくするために時間の流れは少し前後させますね。

①2012(平成24)年6月17日、C社の経営者だったAさんが94歳で亡くなりました。
②Aさんの遺産には、タワマン甲とタワマン乙が含まれていました。
③約3年前の2009(平成21)年1月30日、Aさんは信託銀行から6億3000万円を借入れて、タワマン甲を8億3700万円で購入しました。
④さらに同年12月25日、Aさんは信託銀行から3億7800万円を借入れ、タワマン乙を5億5000万円で購入しました。
⑤Aさんと相続人Xさんらは、③④の借入やタワマン購入を、C社の事業承継の過程の一つと位置付けつつも、これら借入や購入が、近い将来発生することが予想される相続の相続税の負担を軽減・免除させるものであることを知り、かつ、期待して、あえて企画して実行したものでした。(*判決文にほぼこの通り書かれています)
⑥これら借入や購入が無い場合、相続税の課税価格合計は6億円を超えていました。
⑦相続人Xさんらは、財産評価基本通達の算定法によりタワマン甲の価格を約2億円、タワマン乙の価格を約1億3400万として、遺産全部の課税価格合計を2826万1000円としたうえで、基礎控除により相続税額ゼロの申告書を提出しました。
⑧国税庁長官は2016(平成28年)3月10日、タワマン甲乙の価格を財産評価基本通達の「6」に拠るべきと指示し、税務署長は同年4月27日、不動産鑑定士による正常価格として算定された鑑定評価額に基づき、タワマン甲の価額が7億5400万円、タワマン乙の価額が5億1900万円、を前提とする更正処分(課税価格合計8億8874万9000円、相続税総額2億4049万8600円)及び賦課決定処分をしました。
⑨なお、遺言によりタワマン甲乙を取得したXさんらのうちのひとりは、2013(平成25年)3月7日にタワマン乙を5億1500万円で売却しました。

 では、最高裁(第三小法廷)の判断を見ていきましょう。

 先ず、相続税実務では金科玉条とされる財産評価基本通達の法的意義についての判断は重要です。

『評価通達は・・時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、(相続税法22条)に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。』

『本件各更正処分に係る課税価格に算入された本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから、これが本件各通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反するものということはできない。』

 つまり、評価通達は行政の解釈基準にすぎないから、相続税法22条にいう「時価」はこれと離れて「客観的な交換価値」といえるかどうかが解釈適用されるべきであり、評価通達違反⇒相続税法違反とはならない、と判断しました。

 次のポイントは、国税庁の実務運用は財産評価基本通達の一律・画一的適用であるのに、Xさんらだけに、評価通達に拠らずに更正処分するのは、租税法上の一般原則である平等原則に反するのではないか、という主張に対する判断です。(引用中の*は筆者注です)

『課税庁がこれ(*評価通達)に従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。』
 として、原則的には評価通達に拠るべきとしながら、

『もっとも、上記に述べたところ(*前記①~⑨)に照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。』
 と判断したうえで、

 その「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」について、通達評価額と鑑定評価額との間に大きなかい離があるというだけでは上記事情にはあたらないとしながら、

『被相続人(*A)及び上告人ら(*Xら)は、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。』
として、評価通達に拠らず鑑定評価額に拠った更正処分は平等原則に違反しない、と判断しました。

 「余計な裁判せんといてほしかったわ‼」とお怒りの方もおられるかもしれませんね。

 ただ、裁判所の判断と行政の運用実務には違いがあるということは、覚えておいておかれると良いと思います。
 実務の業界では固まった運用や適用も、世間的に見て「なんだかなぁ」と思われる結果になる場合には、少し立ち止まって、もう一度よくお考えになることを、経営者さんにはお勧めします。