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独禁法グリーンガイドライン

 公正取引委員会は、昨年(2023)3月、事業者によるグリーン社会の実現に向けた取組を後押しすることを目的として「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」を策定し、今年4月に若干の改定をしました。

 公正取引委員会といえば、公正かつ自由な競争を促進して自由経済社会を守る、独占禁止法の番人というイメージですが、脱炭素グリーンイノベーションに関しては、
 『グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、多くの場合、事業者間の公正かつ自由な競争を制限するものではなく、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果を持つものであり、温室効果ガス削減等の利益を一般消費者にもたらすことが期待されるものでもあるから、基本的に独占禁止法上問題とならない場面が多い』
 というスタンスに立っています。

 但し、もちろん、脱炭素グリーン化にかこつけた競争阻害行為や弱い者いじめは、許されません。

 では具体的に、どういう行為がそれにあたるの? という国民の問いに応えるべく、策定・公表されたのが、このグリーンガイドラインです。

 内容は主に大企業向けで、共同の取組、取引先に対する制限や選択、企業結合、について、問題とならない行為、問題となる行為、その留意点、を示していますが、中小企業に関係ありそうなのは、優越的地位の濫用行為、ですよね。

 スコープ3が普及して本格的に取り組まれるようになると、脱炭素グリーン化に便乗した弱い者イジメも予想されます。

 では、グリーンガイドラインが示す想定例から、具体的に見ていきましょう。想定例の事例は、少し簡潔にしています。

<事例>
 商品Aの製造販売業者Xは、新たな商品Aに自然界で分解される原材料Bを用いた部品を主に用いて製造することとした。商品Aの製造に用いられる部品Cの製造を委託している取引の相手方Yに対して、原材料Bを必ず調達し、これを用 いて部品Cを製造することを仕様として指示した。

○問題とならない行為
 Xは、新たな商品Aに用いる部品Cの製造を発注するに当たり、Yに対し、当該仕様を明確に示した上で、Yが原材料Bを調達するのに上昇したコストを踏まえ、十分な価格改定交渉を行った。

■問題となる行為
 Xは、価格交渉の場において、当該コストの発生に関して明示的な協議を行わずに、従来と同じ取引価格に据え置いた。

<事例>
 商品Aの製造販売業者Xは、サプライチェーン全体において排出される温室効果ガスの削減に向けて排出量の見える化を行うこととした。そこで、Xは、サプライチェーン内の各取引段階における排出量データを集約するプラットフォームを構築し、取引の相手方に対して、その取引先事業者の排出量データも含め、リアルタイムで当該プラットフォームに排出量データを提供することを要請した。

○問題とならない行為
 当該データは、各社が前記温室効果ガス削減に向けた取組を検討するために非常に有益であるところ、Xは、営業秘密等に関係し各社が共有を望まないデータを除き、データを提供した各社がプラットフォーム上に集約された排出量データへ自由にアクセスできるようにした。取引の相手方がXに対して排出量データを提供するに当たって必要なプログラムは、Xが提供することとしており、取引の相手方において特段のコストは発生しない。

■問題となる行為
 Xは、取引の相手方に対して、当該取引の相手方の排出量データについて、無償又は当該データを提供するに当たって当該取引の相手方において発生するコストに見合った適正な額を下回る対価により、リアルタイムで当該プラットフォームに提供することを要請した。当該データは、各社が温室効果ガス削減に向けた取組を検討するために非常に有益であるにもかかわらず、Xは、当該取引の相手方による当該プラットフォーム上のあらゆるデータへのアクセスを拒否し、自社における取組の検討にのみ用いた。
 *この行為の問題は、取引相手方のデータ提供に対して、適正対価を支払わず、かつ、データへのアクセスを認めなかった点にあります。

<事例>
 商品Aの製造販売業者Xは、貨物輸送事業者Yに対して、需要者への商品Aの輸送に当たって排出される温室効果ガス削減を目的として、非化石エネルギー自動車での貨物輸送に限定した発注を行った。

○問題とならない行為
 Xは、発注を行うに当たり、新たに非化石エネルギー自動車を導入する費用を踏まえた見積書の提出をYに要請し、Yから提出された見積書に基づいて、その合理性について双方で協議を行った。また、Xは 協議の中で、Bに対して見積額からの減額を求める主張を行う際には、その合理的な理由を説明し、Xが一方的に対価を決定することとならないよう十分な協議を行った。

■問題となる行為
 Yは、当該発注への対応のために非化石エネルギー自動車を導入する必要があり、コストが大幅に増加したため、Xに対して、当該費用を運賃に反映するよう交渉を求めたが、Xは交渉に応じることなく、一方的に、従来同様の運賃に据え置いた。

<その他、問題となる事例>
■ 発注内容に含まれない廃棄物回収等の役務の提供要請
  小売業者Xは、自社の廃棄物排出量を削減するため、納入業者に対して、あらかじめ契約で定められていないにもかかわらず、納入した商品の梱包材をその場で回収する業務に無償で従事させた。当該納入業者による梱包材の回収業務は、自社以外が納入した商品に関する場合もあり、また、梱包材を回収することによって、その後の廃棄や再利用のために当該納入業者にとって一定の負担が生じ、当該納入業者の利益となるものではなかった。

■ 温室効果ガス排出量を削減するための機械設備の導入を指示した後の発注取消し
  商品Aの製造販売業者Xは、商品Aの製造に用いられる部品Bの製造を委託している取引の相手方Y及びZに対して、温室効果ガス排出量を削減するための新たな機械設備の導入を指示し、当該機械設備の導入後直ちに一定数量を発注することを説明して発注を確約し、Y及びZが当該機械設備の導入等の取引の実現に向けた行動を採っているのを認識していたにもかかわらず、自己の一方的な都合により、発注を取り消した。

■ 取引の相手方にとって必要ではない商品の購入要請
  商品Aの製造販売業者Xは、温室効果ガス削減のため、商品Aの製造過程において自社が排出する温室効果ガスを測定するシステムを導入した。Xは、商品Aの部品の製造を委託している取引の相手方が、既に同等のシステムを導入済みであるなど当該システムを新たに導入する必要がないにもかかわらず、商品Aの部品の製造に当たり、当該システムを導入しなければ今後発注しない旨を示唆し、自己の指定する事業者が提供する当該温室効果ガス測定システムを購入させた。

 どうですか?

 大多数の日本の大企業は、世界でGX周回遅れにありながらも真面目にがんばっていると思います。

 でも、世の中が大きく変わるときって、どさくさに紛れて良いとこどりするような輩が必ず出てくるのは、歴史の教えるところでもあります。
 最近は「グリーンウォッシュ」も問題にされるようになりました。

 取引先が、脱炭素GXの錦の御旗を掲げつつ、何だか無理を言ってくるようなことがあれば、恐れずひるまず、冷静に、先ずはこの、グリーンガイドラインを思い出してくださいね。

(令和6年4月24日)「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」 の改定について | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)

240424_doc03.pdf (jftc.go.jp)

240424_doc06.pdf (jftc.go.jp)