民法改正 嫡出推定見直しなど、施行されました。
『嫡出』と聞いて、古臭いなぁと思いますよね。でも、今も民法で使われている用語です。
嫡出とは、法律上の婚姻関係にある男女から生まれること、を言います。内縁でも嫡出にはなりません。
2013(平成25)年の民法改正まで、嫡出でない子(「非嫡出子」といいます)の相続分は嫡出子の半分という差別がありました。
今でも、非嫡出子は、法律上の父親不明状態という扱いなので、認知されない限り、法律上の父子関係が生ぜず、父親からの相続権がありません。
今や同性婚の社会的認知が議論されているにもかかわらず、日本の民法は未だ、昭和の高度経済成長期のままなのです。
実は今(特にここ数年)、民法の家族法、親族や相続に関する規定の改正が、次々と進められています。
今回ご紹介するのは、令和4年12月10日に成立、同月16日に公布された、嫡出推定制度の見直しなどを内容とする民法の改正内容です。
主な改正内容は、次のとおりです。
1)嫡出推定規定の見直しと女性の再婚禁止期間の廃止
2)嫡出否認制度の見直し
3)認知無効の訴えの規律の見直し
4)懲戒権に関する規定の見直し
4)は公布と同時に施行されましたが、1)2)3)は今月(2024(令和6)年4月1日)から施行されました。
この改正の趣旨目的は、1)と2)は戸籍のない人(無戸籍者)の予防と救済、3)もその関連、4)は児童虐待の防止です。
戸籍が無いと、住民票もつくれません。乳幼児健診も受けられず、小中学校への就学もできないことになります。
社会問題化したことにより、2014(平成26)年から法務省が実態調査をしたそうですが、無戸籍者779名のうち568名(78%)が、無戸籍になった理由として、夫や前夫以外の男性の子を出産した女性が、生まれた子が嫡出推定規定によって夫や前夫の子と扱われることを避けるために出生届ができなかったこと、を挙げています。母親の勝手のように聞こえますが、その実態の多くはDV(ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力)のようです。
では、改正の内容を具体的にご紹介しましょう。
1)嫡出推定規定の見直しと女性の再婚禁止期間の廃止
▼改正前は、離婚等から300日以内に生まれた子は、前夫の子と推定されましたが、
△改正により、離婚等から300日以内に生まれた場合でも、母が再婚した後に生まれた子は、再婚後 の夫の子と推定されます。
▼改正前は、推定の重複を避けるため、女性の再婚禁止期間100日がありましたが、
△改正により、これが廃止されました。
2)嫡出否認制度の見直し
嫡出否認とは、嫡出推定を受ける場合に父子関係を否定できる制度で、訴えによって否認します。
▼改正前、これを利用できるのは推定を受ける夫に限られ、出訴期間は1年でしたが、
△改正により、子及び母にも認められ、出訴期間が3年に伸長されました。
※ なお、例外的救済措置として、本年3月末以前に生まれた方やそのお母さんにも、来年(2025(令和7))年3月末日までであれば、血縁関係が無いのに嫡出推定によって父子関係が生じている状態を嫡出否認の訴えによって解消することが認められています。該当する方やそのような方をご存知の場合は、出訴期間が来年3月までと短いので、ご注意ください。
3)認知無効の訴えの規律の見直し
嫡出でない場合は、父親の認知によって法律上の父子関係が生じます。これを否定するための制度が、認知無効の訴えです。
▼改正前は、その他の利害関係人(例えば嫡出の異母兄弟など)も認知無効の訴えができ、出訴期間に制限はありませんでしたが、
△改正により、認知無効の訴えは、子、父(認知者)、母、に限定され、出訴期間も原則7年に制限されました。
4)懲戒権に関する規定の見直し
▼改正前の、親権者の懲戒権の規定が児童虐待正当化理由として悪用されるため、
△改正により、懲戒権規定は削除し、親権の内容として子の人格の尊重と体罰禁止が明記されました。
すでにDNA鑑定がフツーに利用できる時代なのに、嫡出推定なんて非科学的かつ前近代的だなぁと思います。
我が国の民法も、ようやく家制度と決別しつつあり、個人の尊厳に軸足を移し、誰もが自由に自己実現を図れる基盤に生まれ変わってもらいたいと思います。