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日本の気候変動2025

 今年(2025年)3月27日、文部科学省と気象庁から、これまでの観測結果と将来予測をまとめた「日本の気候変動2025 ―大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書―」が公表されました。2020年版以来、5年ぶりです。

 2015年のパリ協定の頃から、気候変動対策は、緩和(温暖化ガスの削減)のみならず、適応(温暖化を前提に被害の防止、軽減を図る)の重要性も言われるようになりました。日本は、2018年に気候変動適応法を策定、施行し、政府が気候変動適応計画を定めることになっています。同法第10条では、環境大臣が、おおむね5年ごとに、気候変動影響評価報告書を作成、公表することになっています。

 「日本の気候変動2025」は、その気候変動影響評価報告書が根拠とすべき「気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価に関する最新の科学的知見」と位置づけられます。今年の年末頃には最新の「気候変動影響評価報告書」が公表される予定です。

 では、「日本の気候変動2025」の概要版から、その内容をいくつか見ていきましょう。

 温暖化ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素)の大気中濃度(世界平均)は、工業化以前(1750年頃)と比べて、二酸化炭素が約1.5倍、メタンは2.7倍、一酸化二窒素は1.2倍に上昇し、日本国内の観測結果も上昇が続いています。これによって大気からの赤外放射量が増加し、猛暑日などが増加するとともに、大気中に含みうる水蒸気量が増加するため、雨の降る日数は減っても、一度に極端な大雨となることが増え、これは雪についても同様です。

気温

 日本の年平均気温は、1898(明治31)年から昨年までの間、100年間に1.4度の割合で上昇し、上昇率は世界平均(0.77度)よりも高くなっています。その理由は、日本が属する北半球の中緯度は陸域(温まりやすい)が多いこと、都市化の影響が排除できないこと、だそうです。昨年(2024)と一昨年(2023)は突出して高く、近年の猛暑事例のいくつかは、地球温暖化による気温の底上げがなければ起こり得なかった事象であったことが、イベント・アトリビューション(シミュレーションで「現実の条件」と「地球温暖化が無い条件」を比較する手法)によって示されています。
 将来予測では、緯度が高いほど、また、夏より冬のほうが、気温上昇の度合いが大きくなると予想されています。2度上昇シナリオでも、猛暑日は+約3日、熱帯夜は+約8日(約1か月相当)、冬日(最低気温零度未満)は約17日も減る、と予測されています。

降水

 年降水量では過去130年間を通じた変化傾向が確認できないのに、極端な大雨の発生頻度が増加し、しかも強い雨ほど増加率が高くなっています。つまり、雨の降り方が極端になっています。近年の大雨もまた、地球温暖化の影響によって、大雨の発生確率と強度が大きくなったことが、イベント・アトリビューションによって示されています。
 工業化以前には100年に1回だったような大雨が、2度上昇シナリオでも100年に約3回に増えると予想され、しかもその1回の雨量(時間雨量、日雨量)は、今まで経験したことのない強さや量になると考えられます。

海水温

 日本近海の平均海面水温は、昨年(2024)までに、100年あたり1.33度の割合で上昇し、これは世界平均の2倍以上の上昇率です。その理由として、大陸に近いことや黒潮の影響が考えられています。
 将来も、日本近海では世界平均よりも大きな幅で上昇していくと予測されています。

海洋の貧酸素化

 温暖化に伴う海水温の上昇は海洋循環にも変化を及ぼし、それによる海水中の溶存酸素量の減少(貧酸素化)が懸念されています。今回の報告書では、その情報も新たに掲載されました。
 日本南方では、海面から深度1000メートルまでの溶存酸素量が長期的に減少しており、世界平均と同程度以上の速度で貧酸素化が進行しています。
 この傾向は将来も進行していくと予測されています。


 最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書により「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない 」との結論が出されました。温暖化の議論が始まって以来40年近く生き延びてきた温暖化懐疑論も、ようやく、世界中の科学者による人類の叡智によって、否定されたわけです。

 ただ、温暖化の問題は、地球という惑星の問題ではなく、地球上で生きている人類にとっての問題です。地球上で1億8600万年も生き続けた恐竜は、巨大隕石の衝突という不幸な現象でほぼ絶滅しましたが、人類は、ホモ・サピエンス(賢い人)と自称しながら、自らの活動が原因で地球上で生き続けられなくなるとしたら、何とも愚かしく、他の生物たちにも申し訳なく、恥ずかしいことだと思います。

 昨年、一昨年の異常な猛暑からして、もうすでに、2度上昇シナリオの時代に突入しているのかもしれません。この「日本の気候変動2025」を見ても、2度上昇シナリオの将来予測は、素人目には「この程度で済むのかなぁ」と思えてしまいます。それは、これがあくまで「平均」であって、個別には極端化して、実際には苛烈なものになることが薄められているからのようです。現実の実感は、もっと厳しく耐えがたいものになると覚悟しなければなりません。

 今年年末には、個別具体的分野での影響を予測・評価する「気候変動影響評価報告書」が公表される予定です。
 この先の気候変動によってどのような事態が起こり得るのか、将来の経営リスク評価の重要な科学的資料になりそうです。

気象庁 | 日本の気候変動

「日本の気候変動2020」にもとづく気候変動影響評価報告書はこちら↓
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