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手形等サイトは60日内、来月から

 来月(2024年11月)から、サイトが60日を超える約束手形、でんさい(電子記録債権)、ファクタリング等(一括決済方式)は、行政指導の対象となります。
 すでにご存じの方も多いと思います。
 ただ、「ウチは関係ないから」と、来月以降も今までどおり、取引先から120日サイトの手形を渡されたり、120日サイト手形での支払いを予定しているところもあるかもしれません。
 どういうことでしょうか?

 今回の措置は、今年4月30日、公正取引委員会が、下請代金支払遅延等防止法(下請法)で、親事業者の遵守事項(禁止事項)(第4条)としている「割引困難な手形の交付の禁止」(同条2項2号)の『割引困難な』該当性に関する指導基準と指導方針を、従来の、繊維業は90日、その他の業種は120日、から、業種を問わず60日、とする指導基準等へ変更し、公表したことにもとづいています。

 厳密に言うと、下請法の適用を受ける取引関係、における、下請代金の支払手段としての手形等、が対象となります。

 下請法は、独占禁止法による優越的地位の濫用(同法第2条9項5号)に関する規制を補完する法律として制定され、適用対象を取引内容と当事者(親事業者、下請事業者)の資本金規模によって定型化しています。(*下請法の要件は、後掲の公取委サイトを見てくださいね)
 これにより、迅速かつ効率的な規制が可能なのですが、他方で、実質的に独占禁止法の優越的濫用にあたるような場合も、取りこぼしが生じてしまうわけです。

 「ウチは関係ない」というのは、この下請法の形式的要件(取引内容と資本要件)にあたらないから、サイト60日内の指導基準による規制も受けない、というわけです。

 しかし、本当に、そうやって開き直られたら、泣く泣く120日サイトの手形を受け取るしかないのでしょうか?
 あるいは、来月以降も、下請法適用外の取引先には、120日サイトでの支払いを続けても大丈夫なのでしょうか?

 実は、今回の指導基準等の変更は、形式的には下請法に関するものですが、公正取引委員会はじめ行政の意図するところは、『サプライチェーン全体での支払手段の適正化及び支払手段の改善』に在ります。
 これは、公表時の報道発表サイト(後掲)に、次のように明記されています。

「3 指導基準の変更に伴い、手形等を下請代金の支払手段として用いる事業者が、そのサイトを円滑に短縮するためには、自らが受け取る手形等のサイトが短縮されることや、手形等のサイトの短縮に取り組む事業者の資金繰りへの影響に配慮することが重要であることから、公正取引委員会は中小企業庁との連名で、サプライチェーン全体での支払手段の適正化及び支払手段の改善に取り組む事業者の資金繰りへの配慮について、別紙4のとおり、それぞれ関係する事業者団体や省庁等に要請します。」

 そして、その「別紙4」の関係事業者団体に対する要請文(後掲)に、次のように書かれています。
「下請法の対象とならない取引も含め、サプライチェーン全体でのサイ ト短縮の取組や、手形等のサイトの短縮に取り組む事業者の資金繰りへの影響にも 配慮する必要があります。 貴団体におかれましては、これらの取組を推進するため、傘下会員に対し、下記 を周知・要請いただくよう、御協力をお願いいたします。」

 この趣旨からすると、パートナーシップ宣言をしている大企業はもちろん、それに連なる中堅、中規模企業でも、「下請法の適用はないから」といって120日サイトで開き直っているようでは、いくら外面でSDGsやESG経営を標榜していても、お里が知れる、って感じがしますよね。

 10年以上前になると思いますが、120日サイトって酷いですよね、と顧問会社の社長さんから言われて、公正取引委員会の窓口に電話して、短縮させる規制の予定は無いのか、を問い合わせたことがあります。
 そのときの回答は、「何が悪いんですか?120日が産業界の慣行ですから」と、けんもほろろでした。
 隔世の感がありますね。
 すでに2026年度中での約束手形・小切手の廃止が予定されており、メガバンクは発行の廃止予定を発表しています。

 ただ、紙の手形は無くなっても、長期サイトの問題は残ります。
 納品してから、支払を受けるまで最大60日、支払を手形等で受け取ったとして、そのサイトが60日なら合計120日(ざっと4か月後)、120日なら合計180日(ざっと半年後)、にしか、代金を現実に受け取れません。個人の買い物なら、4か月も引落しを待ってくれるクレジットカードなんてありません。

 手形等はすぐに金融機関等で現金化できるから、というのが、現金払いと同等に扱われる理由です。
 でも、割引がありますよね。
 割引ってつまり、現実の支払いまでの金利を、債務者である買主は負担せず、債権者である売主が負担させられているってことです。これもおかしいですよね。個人の買い物なら、クレジットカードで3回以上の分割は買主が金利を負担するのが当たり前です。

 ようやく、不条理な長期サイトに対する短縮化規制が始まりました。
 遅すぎる気もしますが、進まないよりはマシですね。

 今後さらに、下請法適用外にも取引の公正化規制、納品から現実の支払いまでの期間の更なる短縮化規制、が進むことを期待しています。

変更発表の公取委サイト 
(令和6年4月30日)「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」 の発出について | 公正取引委員会
 要請文 
240430_tegata4.pdf 

下請法の概要 | 公正取引委員会