事業者のための生物多様性ガイドライン
先月(2024年4月)7日、環境省から、事業者のための「生物多様性民間参画ガイドライン~ネイチャーポジティブ経営に向けて~」(第3版)が公表されました。
生物多様性の喪失は、地球温暖化による気候危機とともに、1992年のリオサミット(国連環境開発会議)で取り上げられた、二つの大きな地球環境問題のひとつです。
脱炭素に比べ、世界的目標設定が遅れていましたが、ようやく、2021年「G7 2023年自然協約」で『ネイチャーポジティブ(自然再興)』(自然を回復軌道に乗せるために、2030年までに生物多様性の喪失を止めて反転させる)目標が合意され、2022年12月の生物多様性条約締約国会議COP15「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択により、世界的目標が、2030年ミッションとしてネイチャーポジティブ、2050年ビジョンとして自然共生世界、に設定されました。
IPCCの生物多様性版であるIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学―政策プラットフォーム)が2019年に公表した評価報告書では、人間の活動によって、過去50年間の地球上の種の絶滅が、過去1000万年平均の少なくとも数十倍あるいは数百倍の速度で進んでおり、適切な対策を講じなければ、今後さらに加速すると指摘されています。
「人間活動」の大部分といえば、事業活動、企業活動、ですよね。
世界経済フォーラム2023年報告書では、グローバルリスク長期的重要度ランキング(今後10年間)において、生物多様性の喪失や生態系の崩壊は、第1位と第2位の気候変動対策の失敗、第3位の自然災害と極端な異常気象に続き、第4位とされています。世界のGDPの半分(約44兆ドル)以上は、自然の喪失によって潜在的に脅かされているとされています。一方で、ネイチャーポジティブ経済への投資と移行で、2030年までに約3億9500万人の雇用創出と年間約1150兆円規模のビジネスチャンスが見込めるとされています。
環境省が公表したこのガイドラインは、このような状況とTNFDなど国内外の動向も踏まえて、企業が生物多様性の保全や自然資本の持続的利用、すなわち持続可能な経営を目指す際に参考となるよう作成されました。
自社の事業活動をネイチャーポジティブ化していくのに役立つ考え方や参考資料が満載です。
ネーチャーポジティブ経営の辞書のように考えてくださいね。
では、具体的にネイチャーポジティブ経営への取組みの部分の概要をご紹介しますね。
第2編の生物多様性の配慮に向けたプロセス、と、第3編の影響評価、戦略・目標設定と情報開示等、です。
第2編 生物多様性の配慮に向けたプロセス
国内外の枠組みへの対応を念頭に、実際に事業活動において生物多様性に適切に配慮するための基本プロセス及び各業種・事業ごとの対応の考え方を解説しています。
基本プロセスは、PDCAです。
エコアクション21などEMS認証を取得されている企業は、そのサイクルに組み込んで実施します。
プロセス1:関係性評価・体制構築
社内体制を構築し、自社の事業活動・サプライチェーンが生物多様性に及ぼす影響の把握により、経営としての重要事項を抽出します。
プロセス2:目標設定・計画策定
その結果を踏まえ、自社としての戦略や対応方針、裏付けとなる指標・目標を設定し、目標に向けた具体的な取組を盛り込んだ計画を策定します。
プロセス3:計画実施
計画等に基づいて具体的な取組を実施します。
プロセス4:検証と報告・見直し
定期的なモニタリングにより、自社の取組状況を定期的に把握・分析し、計画の進捗状況や達成度を評価するとともに、必要に応じて計画の見直しに反映します。
さらに横断的取組として、内部の能力構築、外部への情報公開やステークホルダーとのコミュニケーション、を随時に実施することが推奨されています。
第3編 影響評価、戦略・目標設定と情報開示等
第2編のプロセス構築に関連して、生物多様性・自然資本への影響評価の考え方や、それを踏まえた戦略や目標の設定、情報開示等について、より詳しく解説するとともに、参考となるような企業事例が掲載されています。
今回の第3版では、経営者や従業員が自社の取組レベルを認識し、より高いレベルへステップアップすることが可能となるよう、目標設定と情報開示を柱とした取組レベルの5段階が示されています。
レベル1:生物多様性に関して無実施
レベル2:事業活動のうち、一部分について、実施
レベル3:環境マネジメントシステムなどに基づき継続的に実施
レベル4:将来的に必要となる国際的枠組み(SBTs for Nature,TNFD)に向けて一部の活動を実施
レベル5:国際的枠組みに対応し、活動を継続的に実施
最後に、第4編のQ&A集に掲載されている、中小企業(実務担当者)のためのQ&Aをご紹介しますね。
『Q2-2.人員も資金も無いが、どこから取り組めばよいのでしょうか?
A2-2.まずは事業活動と自然や水資源などの関係を評価します。その上で、30by30など比較的取り組みやすいところから始めることが考えられます。』
46億年という地球の歴史上、現在は第6次の大量絶滅時代なのだそうです。直近は約6500万年前の恐竜の絶滅ですが、その原因はユカタン半島辺りに落下した巨大隕石と言われています。人類は自らの活動で、自身も含めた大絶滅を引き起こしているなんて、とても悲しい(哀しい)ですよね。
原材料はじめ事業活動で消費するモノで、他の生物や地球が作ったモノは一切使ってません、なんて企業は無いと思います。
ネイチャーポジティブ経済に移行するには、人間中心の近代市民社会の世界観から、人間も地球の自然の一部という古くて新しい世界観へ、パラダイムシフトが必要不可欠だと思います。
日本人にはむしろ馴染みのある考え方ですよね。
「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)-ネイチャーポジティブ経営に向けて-」の公表について | 報道発表資料 | 環境省 (env.go.jp)
ガイドライン本編はこちら↓
000125803.pdf (env.go.jp)