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中小企業にも脱炭素の波(TCFD)

TCFDって、知ってますか?
「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」の略です。
 気候変動が金融市場に重大な影響をもたらすとの認識が主要国に広がり、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)によって、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立されました。
 2017年6月に最終報告書が公表され、企業等に対し、気候変動に関連するリスクと機会、その財務への影響を情報開示するよう求めています。

 気候変動が金融の安定にもたらしうるリスクについては、2015年9月の、イングランド銀行総裁で金融安定理事会の議長でもあったマーク・カーニー氏のスピーチ「ホライズンの悲劇」が有名です。
 日本語訳が一般財団法人地球・人間環境フォーラムのサイトにあったので、抜粋して引用してみますね

英国中央銀行総裁マーク・カーニー氏のスピーチ全訳 | 一般財団法人 地球人間環境フォーラム (gef.or.jp)

『気候変動はホライゾン(地平線上)の悲劇です。

 気候変動の壊滅的な影響が、伝統的な領域を超えて及んでいくであろうことは、アクチュアリーたちに言われるまでもありません。今の世代が備えようとしないコストを将来の世代に押し付けているのです。

 つまり、ビジネスサイクル(景気循環)、政治サイクル、自らの権限によって縛られる中央銀行のような専門行政機関のホライゾン(範囲・領域)を越えて、それらのコストが生じるのです。

 金融政策の範囲は2~3年の広がりです。金融の安定のための範囲はもう少し長いのですが、しかし、一般的にはクレジット・サイクル(信用サイクル)よりも少し長い約10年までです。言葉を替えると、一旦気候変動が金融の安定のための決定的な問題となっていると判明すると、その時にはすでに手遅れかもしれません。』

 つまり、従来の金融世界では、投資や政策の時間的射程範囲は数年からせいぜい10年くらいだったのに対し、気候変動によるリスクは、数十年かけて、最初は徐々に、閾値を超えたら急激に、表れるもので、気が付いた時にはすでに手遅れになっている、ということです。気候変動リスクは、従来の金融常識とは異なる長期的視野が必要、と警鐘を鳴らしました。

TCFDの内容については、環境省が詳しい説明資料をサイトに載せています。

Microsoft PowerPoint – <温対課作成>【資料2:TCFD概要資料】TCFD提言に沿った気候リスク・機会のシナリオ分析支援事業 (env.go.jp)

一橋大学大学院伊藤邦雄特任教授らによるTCFDコンソーシアムも設立されています。

Top | TCFDコンソーシアム (tcfd-consortium.jp)

要点をご紹介しますね。
 対象は、社債または株式を発行している全ての組織体(企業から投資家まで)です。銀行や保険など4つの金融セクターと、非金融4セクター(エネルギー、運輸、素材・建築物、農業・食料・林業製品)に対しては、「補助ガイダンス」でより詳しく提言されています。
 開示方法は、一般的な年次財務報告等に盛り込むことです。
 開示すべき基礎項目は、次の4点です。(上記コンソーシアムのまとめがわかりやすいので引用しますね)
 ガバナンス
 :どのような体制で検討し、それを企業経営に反映しているか。
 戦略
 :短期・中期・長期にわたり、企業経営にどのように影響を与えるか。またそれについてどう考えたか。
 リスク管理
 :気候変動のリスクについて、どのように特定、評価し、またそれを低減しようとしているか。
 指標と目標
 :リスクと機会の評価について、どのような指標を用いて判断し、目標への進捗度を評価しているか。

 この「指標と目標」で開示が求められるものの一つに「温室効果ガス排出量(スコープ1,2,3)というのがあります。

「スコープ1」とは、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)です。
「スコープ2」とは、事業者が他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出です。
「スコープ3」とは、上記以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)のことで、いわゆるサプライチェーン(バリューチェーン)排出量のことです。

 2021年10月のTCFDガイダンスでは、スコープ1とスコープ2の排出量はすべての企業に対して開示を求め、スコープ3も、「重要性ある事項」の限定付きながら、開示が強く奨励されるようになりました。

 日本政府は、2021年6月改定のコーポレートガバナンスコード(金融庁と東京証券取引所が決める、上場企業の企業統治に対するガイドライン)により、今年2022年4月から始まる「東証プライム市場」上場企業へのTCFD開示を実質的に義務化します。
 2021年11月のJPXによる「TCFD提言に沿った情報開示の実態調査」↓によれば、すでに東証上場企業時価総額の半数の企業がTCFDに賛同を表明しています。

PowerPoint プレゼンテーション (jpx.co.jp)

 こうして見てくると、今後、東証プライム上場企業など上場企業は、TCFD報告書とガイダンスに沿った気候変動関連財務情報の開示が常識として求められ、その開示情報にはスコープ3すなわちサプライチェーンやバリューチェーン排出量の情報も含まれる、ということになります。
 サプライチェーン・バリューチェーンの排出量の算定は、世界的ルール「GHGプロトコル」によって算出しなければなりません。環境省や経産省から資料が公表されています。

supply_chain_201711_all.pdf (env.go.jp)
環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ (env.go.jp)

 自社の温暖化ガス排出量の把握や見える化なんて、中小企業までやる必要あるの?なぁんて思っている経営者の皆さま、サプライチェーン・バリューチェーンといえば、いうまでもなく、中小企業のことですよね。

 2050年カーボンニュートラルに向けて世界中が走り始めた今、中小企業にもその大波は上流から迫ってきています。もうすでに迫られている企業もあるでしょう。

 自社の温暖化ガス排出量の把握と見える化、これこそ「環境経営」のはじめの一歩なのです。