下請け振興基準とパートナーシップ宣言
最近、取引先で「パートナーシップ構築宣言」をしたところはありませんか?
今まで何かとイジメられてきた中小企業経営者の方々には、「また外面の良いことだけ言って。どうせカッコつけだろ!」なんて思っておられる方も多いかもしれません。
でも、今、時代は変化しています。
この「パートナーシップ構築宣言」、案外、中小企業にとって使い道があるように思いますよ。
「パートナーシップ構築宣言」の中核部分は、下請中小企業振興法が第3条で定める「振興基準」を、親事業者として順守する旨を公に宣言するものです。
下請中小企業振興法は、下請関係を改善して、下請関係にある中小企業者が自主的にその事業を運営し、かつ、その能力を最も有効に発揮することができるよう下請中小企業の振興を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です(第1条)。
「振興基準」とは、下請中小企業の振興を図るため下請事業者及び親事業者の拠るべき一般的な基準として経済産業大臣が定めるもので、内容は、発注書面の交付その他の方法による親事業者の発注分野の明確化及び親事業者の発注方法の改善に関する事項、や、対価の決定の方法、納品の検査の方法その他取引条件の改善に関する事項、を定めるものとされています(第3条)。
「パートナーシップ構築宣言」の公表要領には「2.掲載の取りやめ」が定められています。
①宣言を行った企業(以下「宣言企業」という。)に対して下請中小企業振興法第 4 条に基づく指導又は助言を行ったときその他宣言企業が宣言を履行していない と認めるときは、業所管省庁は、中小企業庁を経由して、団体に対して当該宣言企業の宣言の掲載を取りやめることを求めることができる。
②①の求めがあった場合には、団体(公益財団法人全国中小企業振興機関協会、専用ポータルサイト運営団体)は、当該宣言企業の宣言の掲載を取りやめるものとする。
つまり、宣言どおりに振興基準を順守していなければ、「パートナーシップ構築宣言」が事実上取り消されるということになります。
下請Gメンや「下請かけこみ寺」窓口の制度もありますから、口先だけのカッコつけ、は許されないということです。
昨年7月に改正された「振興基準」ですが、判りやすいパンフレットにまとめられていますので、中小企業経営者の方々には、ぜひ一度、読んでみていただきたいです。
下請中小企業振興法「振興基準ガイドブック」 経済産業省・中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/shinkou_guideline.pdf
と言っても、読まない方々のために、大事なところをピックアップして、ご紹介しますね。
先ず注目したいのは、約束手形・電子記録債権等のサイト(満期までの期間)に関するものです。
余談ですが、15年ほど前、下請法で代金支払期限を現金払いについて60日以内と規制した際、所管する公正取引委員会に、手形サイトの120日のほうが問題なのにどうして手形サイトも同様の規制にしないのか、問い合わせたことがありました。しかし、そのときの回答は「手形120日は慣行なので問題はなく、規制短縮の予定もない」という、けんもほろろな対応でした。
現在、約束手形・電子記録債権等のサイト(満期までの期間)は、2024年以降、60日を超えるものは規制対象とされる予定です、となりました。隔世の感がありますね。
公正取引委員会及び中小企業庁は、2024(令和6)年までに、60日を超えるサイトの約束手形等を、下請法上「割引困難な手形」等に該当するおそれがあるとして指導の対象とするよう、下請法の運用の見直しの検討を行うことしています。
また、約束手形の利用は、2026年までに全産業界で廃止することが求められています。
「成長戦略実行計画」(2021(令和3)年6月18日)において、2026(令和8)年の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する旨、閣議決定されています。
「第3回中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ」(2022(令和4)年2月22日)において、事業所管省庁から事業者団体に対し、約束手形の利用廃止に向け、各業界における具体的な段取り・ロードマップを策定するよう要請されています。
金融業界に対しても、2026(令和8)年に手形交換所における約束手形の取扱いを廃止することの可否について検討するよう要請されています。
それまでの間も、約束手形を現金払いにする際、そのコストを下請事業者に負わせてはなりません、とされています。
発注分野の明確化、発注方法の改善について、振興基準ガイドブックを見てみましょう。
下請業者の経営を安定させるため、親事業者には、できる限り長期的な見通しのきく発注分野の提示が求められます。
発注は、必要なリードタイムを考慮して行うとともに、発注予定数量と発注数量が大きく異なった場合には、必要なコスト負担等が必要です。
下請事業者に無理なしわ寄せをしないため、親事業者には、納期や納入頻度の適正化が求められます。
対価の決定方法の改善(価格交渉・価格転嫁)については、次のように求められています。
どのような取引であっても、年に1回以上は価格協議を行うことが求められます。
下請事業者からコスト上昇等による対価の見直しの申出があれば、定期的な協議時期でなくても、遅滞なく協議に応じることが必要です。
取引対価は、合理的な算定方式に基づき、下請事業者の適正な利益を含むよう、十分な協議を行って決定することが必要です。
下請事業者の賃金の引上げを考慮に入れない協議は、適正な価格協議とは言えません。特に、外的要因による賃金上昇には十分な配慮が必要です。
不合理・不適正な原価低減要請や原価低減活動を行ってはなりません。
交渉経緯の記録保存は、後々のトラブルを防ぐためにも重要です。議事録などは、なるべく記憶が明確な交渉当日などに作成しましょう。
納品検査、型取引などその他の取引条件については、次のように求められています。
自社の納入先等からクレームが入った場合、合理性なくその負担を一方的に下請事業者に負わせてはなりません。
親事業者は、支給材を支給する場合、そのルールをあらかじめ下請事業者と協議により定めることが必要です。設備の貸与の場合も同様です。
金型などの型については、型製作費の支払時期、保管費用、量産期間終了後の廃棄の時期など、あらかじめ協議して定めておくことが重要です。
親事業者は、下請事業者に過度の長時間労働の強要や割増賃金の未払いなど、働き方改革を阻害するような取引を行ってはなりません。
知的財産の保護・取引適正化については、次のとおりです。
親事業者は、下請事業者が秘密として管理している情報(秘密情報)の開示を強要したり、無断で利用してはなりません。
共同研究開発等の成果に関する権利の帰属については、両者の貢献度に応じ、下請事業者の利益に十分配慮して決定する必要があります。
技術情報等は重要な財産であり、データ取扱い等を適正化するとともに、提供を受ける際は、技術料を含む相当な対価を支払う必要があります。
「パートナーシップ宣言」には、もう一つの柱として「サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列等を超えた新たな連携」を掲げることになっています。
その個別項目には、次の事項が含まれています。
「IT実装⽀援(共通EDIの構築、データの相互利⽤、IT⼈材の育成⽀援、サイバーセキュリティ対策の助⾔・⽀援等)」
「グリーン化の取組(脱・低炭素化技術の共同開発、⽣産⼯程等の脱・低炭素化、グリーン調達等)」
「健康経営に関する取組(健康経営に係るノウハウの提供、健康増進施策の共同実施等)」
中小企業にとって、DX、GX、健康経営、は、なかなか自社単独で実現することも困難です。他方で今、中小企業は大手取引先、親事業者から、スコープ3(サプライチェーン)として、脱炭素化や人権DD(デューデリジェンス)対応も求められています。
パートナーシップ宣言という親事業者の自主性に委ねるだけでなく、振興基準の「下請事業者の施設又は設備の導入、技術の向上及び事業の共同化に関する事項」(下請中小企業振興法 第3条2項3号)として、スコープ3としてのDX・GXに関するコスト負担を下請事業者に負担させない、さらには、下請事業者の自主的積極的なDX・GXに協力、支援する、などを盛り込む、なんていうのはどうでしょうか?