「IPBES」知ってますか?
IPBESとは、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)、「イプベス」と読みます。
地球環境問題の2大課題は、気候変動と生物多様性です。気候変動に関する政府間パネル「IPCC」は、すでに広く知られるようになりましたね。IPBESは、生物多様性版のIPCCと呼ばれています。
地球環境問題が世界で明確に意識される契機となったのは、1992年にリオデジャネイロで開催された「地球サミット(国連環境開発会議)」です。これを機に、気候変動枠組条約と生物多様性条約、これらの締約国会議COPが始まりました。
気候変動に関しては、COP3の京都会議が有名ですが、生物多様性条約COP10の愛知県名古屋市での会議(2010年)も、生物多様性問題の重要なマイルストーンとなりました。「2010年までに生物多様性の損失速度を減少させる」という2010年目標は達成できず、新たに「愛知目標」として、2050年までのビジョン(中長期目標)「自然と共生する世界」を掲げ、2020年までのミッション(短期目標)として、数値目標を含む20の個別目標を設定しました。
IPBESは、生物多様性条約COP10議長国であった日本が、前回COP9議長国のドイツと共同で呼びかけ、2012年に設立されました。
今までに完了したIPBESアセスメントは、次のとおりです。
花粉媒介に関するテーマ別評価報告書(2016)
シナリオとモデルの方法論に関する評価報告書(2016)
土地劣化と再生に関するテーマ別評価報告書(2018)
アジア・オセアニア地域評価報告書(2018)
その他の地域評価報告書(2018)
地球規模評価報告書(2019)
この「地球規模評価報告書」では、「愛知目標」の達成には程遠い現状が指摘されています。自然は人間の生存と良質な生活に不可欠であるのに、自然の寄与は偏在し、地球上のほとんどの場所で自然が大きく改変され、地球全体で大量絶滅の危機(推計100万種、絶滅速度は過去1000万年平均の数十から数百倍)、土地や海の利用や乱獲、汚染や外来種、気候変動、人口増加、などの直接・間接の変化要因が過去50年で増大していること、2030年以降の持続可能性目標の達成に「社会変革」が不可欠であること、が指摘されています。
気候変動に関するIPCC報告書も、第3次報告書(2001年)はすでに、いま世界がお尻を叩かれている「50年排出量ゼロ」に繋がる内容を指摘していました。でも当時は、環境問題に関心のある一部の人々以外、ほとんど知られておらず、まだまだ世間では気候変動懐疑論も幅を利かせていましたよね。まさに「不都合な真実」だったわけです。
でも、それからたった20年しか経っていない今、2001年あの当時を思い出してみてください。20年後、毎年の異常気象、災害多発、で、気候危機を肌で感じさせられるようになるなんて、想像できたでしょうか?
IPBES報告書もやがて、IPCC報告書と同じように、世界中の人々に「具体的な数値目標」を示して、私たちにそれを実現する「具体的な行動」を求めるようになります。
生物多様性の評価は、気象現象に比べて複雑かもしれませんが、私は、気候変動で示された人類の叡智(世界中の科学者の協働による成果)は、生物多様性評価でもまた示されるものと信頼しています。
企業活動の場面で考えると、気候変動問題に比べて、生物多様性は、関係ないあるいは少し遠い、と思われるかもしれません。しかし、エネルギー使用と無縁な企業活動があり得ないのと同じく、生物資源と無縁な企業活動もないと思います。原材料仕入れがほぼ無い弁護士業でも、紙は(今のところ)仕事の必需品です。
今はまだ、マスコミ報道でIPBES報告書は見かけませんが、これからは意識して注目していこうと思います。