「家族」を考える同性婚違憲判決
民法は、市民生活に関する最も基本的な法律ですが、一般の方には馴染みが薄いと思います。
日本は高校までに法教育が無いので無理もないですが、投資教育などする前に、先ずは、基本的な法教育が必要だと思います。
民法は、大きく、「第一編 総則」から「第三編 債権」までの「財産法」と、「第四編 親族」「第五編 相続」の家族法に分かれています。その趣旨はざっくり言うと、市民生活の場面のうち、人と金銭や財産の関係、と、人と人の人間的な関係、ということです。
私が司法試験受験生だった1990年代前まで、家族法は、受験勉強の主戦場ではありませんでした。しかし最近、特に2010年代以降、家族法の重要判例(最高裁判決)や家族法の改正が増えてきています。
今年のトピックは、3月14日に札幌高等裁判所、10月30日に東京高等裁判所、12月13日に福岡高等裁判所、で出された、同性婚違憲判決ではないでしょうか?
全国的に提起されている裁判ですが、高裁の違憲判決が3つ出そろいました。いずれ最高裁が統一判断することになりますが、その内容が楽しみです。
高裁違憲判決のうち、公刊されているのは最初に出された札幌高裁判決だけです。これをご紹介してみましょう。
争われているのは、民法や戸籍法の婚姻に関する諸規定(相続権や同居・扶助義務、嫡出推定や親権、など)において、同性婚が認められていないことが、憲法13条、同14条、同24条、に違反するかどうか、です。
札幌高裁判決は、異性愛か同性愛は、出生前あるいは人生初期に決定されるもので、意思で選択するものではないという理解(精神医学に関わる大部分の専門家団体の見解に拠っています)に立ったうえ、同性愛も異性愛と同様に人間同士の恋愛や性愛として、個人の尊重における重要な一要素であって、人格権の一内容を構成しうる、としています。ここまで言うなら、同性愛も憲法13条の射程内という流れになりそうなのですが、判決では、民法や戸籍法の婚姻に関する諸規定が、直ちに憲法13条に違反するとは認められない、としました。
ただ、注目すべきは、婚姻に関する憲法24条は、異性婚のみならず、同性婚についても同程度に保障しているとして、同性婚を認めていない民法や戸籍法の諸規定は、憲法24条に違反する、と判断したことです。
また、憲法14条についても、異性愛か同性愛は意思によって選択・変更し得ないのだから、同等に制度的保障を享受し得る地位があり、それを区別する合理的理由はない、として、民法や戸籍法の婚姻に関する諸規定が異性婚のみを認め、同性婚を認めていないのは合理的根拠を欠くとして、憲法14条に違反する、と判断しました。
憲法13条は意思と努力による自己実現の保障、憲法14条は意思と努力では変えられない事由による区別は差別として禁止、と理解できます。最高裁も、同性愛が意思による選択不能なアイデンティティとする科学的知見を認めざるを得ないなら、人格権保障の射程内であることも認めざるを得ないと思います。
そして、憲法24条を、生涯の伴侶を得る権利、と捉えれば、同性婚を異性婚と区別する合理的理由は難しいと思います。
人格権の射程内と言いながら、憲法24条は異性婚のみを保護するもので、同性婚は保護していない、とは言いにくいですよね。
私も含め、多くの日本人は未だ、同性婚には馴染みがないと思います。
しかし、札幌高裁判決は、昨今の社会の流れとして、次のような事情を挙げています。
・同性婚が可能となった国・地域は30を超えていること
・国連自由権規約人権委員会は日本政府報告書において、レズビアン、ゲイ等の人々が法律的な婚姻等 へのアクセスにおいて差別的な扱いに直面し、同性婚を含め、市民的及び政治的権利に関する国際規約に規定されたすべての権利を享受できるようにするよう指摘されたこと
・我が国でも地方公共団体のうち260を超える団体において、パートナーシップ認定制度を導入し、その人口カバー率は65%に達していること
・同性婚の法制化に賛同する企業の可視化(Business for Marriage Equality)に加わる企業や団体は360を超えていること
・日本家族学会や日本学術会議は、同性婚既定の新設提案や民法改正の提言を発表していること
・新聞社による世論調査で同性婚を容認するとの回答は最低54%から最高72%に達していること
婚姻に関しては、約10年前(平成27(2015)年12月16日)、最高裁は大法廷判決で、夫婦別姓を認めない民法750条を「合憲」(但し、5名の裁判官は違憲)」と判断しました。この判例は、札幌高裁の同性婚違憲判決でも引用されています。
夫婦別姓訴訟は異性婚カップルが提起したものですが、婚姻や家族のカタチ(在り方)に関わる根源的問題提起という点で共通しています。
夫婦同姓合憲大法廷判決の寺田裁判官による補足意見にもありますが、我が国の社会が明治以来固めてきた婚姻と家族のカタチは、同じ氏の両親と子供たち、でした。それは子供の健全な養育とその世代継承のために合理的根拠がありました。そして、戦後の復興と高度経済成長を支えるために、サラリーマンとその銃後を支える専業主婦の核家族モデル、が必要だったと言えるでしょう。
しかし、1990年代後半以降、経済は低成長時代に入り、女性の社会進出が進み、ゲノム解析技術の進展も相まって、「家族」における「血のつながり」は、以前ほど重要な要素ではなくなりつつあるようです。
今年6月には、経団連が「選択的夫婦別姓」導入を求める提言をとりまとめました。
中小企業経営においても、夫婦別姓や事実婚、同性婚、は、経営課題に入れておく必要があります。従業員さんのモチベーションに、家族の状況は大きく関係するからです。
社会保険制度や税制度でも、法律婚と事実婚には違いがあります。
少し古い資料ですが、内閣府の男女共同参画局が「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」の第7回会議で配布した資料を見つけましたので、参考にしてみてください。なお、この間の改正もありうるので、チェックリスト的に参照して、最新の情報は社会保険労務士さんや税理士さんにお聞きくださいね。
「いわゆる事実婚に関する制度や運用等における取扱い」(令和3年12月14日 内閣府男女共同参画局総務課調査室)
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夫婦別姓や同性婚を希望される従業員さんがおられましたら、先ずはよく、その方の話を聞いてあげてくださいね。