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事業承継時の役員退職給与の注意点

先日、日弁連ライブ実務研修「会社法と税法 Part2(役員給与の税務)」(講師は湊義和税理士)を受講しました。
そのなかから、中小企業の事業承継なら「あるある」事例ながら、法人税法ではバッサリ否認されてしまった裁判例(東京地裁平成29年1月12日判決(確定))をご紹介しますね。

事案に入る前に、先ずは、関係する法人税法の規定をご紹介しますね。

法人税法は、基本的に「役員給与の損金不算入」としています。
同法第34条に規定する例外しか損金算入を認めていません。
この趣旨は、役員が恣意的に法人所得を減額させて法人課税を回避することが可能になるから、だそうです。性悪説に立たないと徴税できない、ってことなんでしょうか?
但し、「退職給与(業績連動給与に該当しないもの)」は、同条1項本文の括弧書きで損金不算入の役員給与に含まれないとして、損金算入が認められています。

では、この「退職給与」とは何か、というと、基本通達に具体的な解釈基準が決められています。

先ず、法人税法第34条1項本文括弧書き「退職給与で業績連動給与に該当しないもの」にいう「業績連動給与に該当しない退職給与」については、基本通達9-2-27の3に記載があります。(以下は要旨)
○いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、業績連動給与に該当しないから、役員給与損金不算入の規定の適用はない。(功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として(**ここ覚えておいてくださいね)、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給される金額が算定される方法をいう。)

次に、事業承継時の役員退職給与に関しては、基本通達9-2-32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)があります。重要なので、そのまま引用しますね。
○法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、平23年課法2-17「十八」により改正)
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

では、いよいよ、その問題の事案をご紹介しますね。

原告会社は、プラスチック製部品の製造販売をする株式会社で、工場3か所、従業員約80人、親会社が全株式を保有しています。前代表取締役H氏は、自分が前任から引継ぎをしてもらえず苦労したことから、後任者には伴走型で引継ぎしようと思い、後任候補A氏(現代表取締役)も、H氏が引き続き2年間は原告会社に常勤することを条件として代表取締役への就任を承諾しました。
平成23年5月の株主総会で、H氏は取締役に再任、A氏は取締役に新任されました。
その後、取締役会でA氏が代表取締役に選任され、役員報酬は、A氏月額85万円、H氏月額70万円(代表取締役退任直前は月額205万円)、と決まりました。
問題の退職金は、上記取締役会でH氏の退職慰労金5600万円余と決められ、6月にH氏に支給されました。

判決は、次のような事実をもとに、基本通達(9-2-32)にいう「その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合」にあたらない、として、H氏に支給された5600万円余を「退職給与」と認めず、損金算入を認めませんでした。
○社内にも取引先にも代表取締役交代を公表、挨拶し、メインバンクに対する経営者保証も変更しているが、そもそも後任A氏が2年間は常勤を条件に代表取締役への就任を承諾したところ、実際にも、H氏は、常勤相談役として、毎日出社し、退任前と同じ席で執務し、同年末頃まで、営業以外の経営全般(A氏は営業出身)についてA氏に対する指導・助言を行い、相談役として経営判断に関与していた。
○H氏が退任後も、代表者会議には出席し、営業会議や合同会議には出席しないものの確認印を押し、10万円を超える稟議書にも押印するなど、経営上の重要な情報に接するとともに個別案件の経営判断にも影響を及ぼしうる地位にあった。
○会社の資金調達のためのメインバンクとの面談や交渉も、H氏が単独で行い、銀行担当者も窓口や実権はH氏と認識していたこと、など資金繰りに深く関与していた。
○親会社との利害調整をH氏が行ったこと、A氏が前職の営業部長を事実上兼任し、その留守中の来客対応はH氏が行っていたこと、など対外的な関係においてもH氏が経営上主要な地位を占めていた。
○報酬についても、H氏の月額報酬は代表取締役交代で205万円から70万円に減額されているが、A氏の70万円と遜色のないことから、代表取締役交代後もなおH氏が原告会社の経営上主要な地位を占めていたと認められる。

本件は、原告会社がいったんは損金不算入を認めて修正申告に応じたにもかかわらず、やはり損金算入されるべきとして更正の請求をし、これに対する更正をすべき理由がない旨の通知処分に対して、裁判所に取消訴訟を提起したという、ちょっと潔くない事情もあるのですが、諦めきれない気持ちもわかるような気がします。
中小企業の事業承継は、ある日を境にきっぱりすっきりとはいかないですよね。バトンリレーでも並走区間があるのですから・・。

こうしてみると、今後に事業承継を予定されている中小企業は、先代の退職給与をいつ、いくらで支払うようにするか、念入りな計画と準備が必要といえます。
最初にご紹介した「功績倍率法」では退任直前の給与額がもとになりますから、顧問や相談役になって報酬額を下げてからでは、以前の代表取締役退任時の額で計算するとその差額が「不相当に高額な部分」(法人税法第34条第2項)として損金算入が否認されるリスクがあります。
他方、代表取締役退任時金額で算定するには退任後に「分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情」が認められるよう、経営関与度を大幅に少なくしなければなりません。
それぞれ会社ごとの事情もありますから、事業承継を予定されている経営者さんは、予め、税理士や弁護士の専門士業によく相談して、計画的に準備しながら進めてくださいね。